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ビジョンを見ていた。
集中治療室の前、何人もの人が入れ代わり立ち代わりガラスの前に立って、必死で声をかけてくれるのを。
時計はとっくに夜の時間になっている。にも拘らず、家族や親戚、クラスメートたち、部活を休んでいた部員たちまでがすっとんできてくれているのだ。
『水城部長、アイス奢ってくれるって言ってたでしょ。嘘にするつもりなんですか。部長、嘘つきになってもいいんですか』
卓哉がガラスの前で、俺のことを睨みつけるように言った。
『嫌ですからね。……オレ、先輩のこと助けられたかもしれないなんて、見過ごしてた自分が殺したかもしれないなんて、そう思いたくないですから。何がなんでも復活してください。みんなそう望んでるんですからね……』
――ごめん、卓哉……。
『何でそんなところで寝とるんだ、アホかお前は』
気難しいはずの父方の祖父。新幹線を使わなければ来られない距離に住んでいるのに、電車に飛び乗ってくれたようだった。祖母と一緒に、ガラスの向こうの俺を叱責している。
『親どころか、じいちゃんたちより先に死ぬ親不幸者がおるか!このバカタレめ。お前にゃ、次の休みの畑仕事を手伝ってもらわな困るっちゅうに。そう約束しただろ、なんでそこで寝とるんだ』
『ええ、そうよ、映くん。おじいちゃんも私も、映くんが来てくれるの本当に楽しみにしてるんだから。今年の夏は無理でも、来年は来てくれるって言ってたでしょ?ああその前にお正月よ。来てくれるわよね?お願いよ……』
――ごめん、じいちゃん、ばあちゃん。
『意味わかんないんだけど。なんで死にかけてんの水城』
『ほんとそれ。ジョークにしては面白くないよね』
『マジで。完全に滑ってる。ありえねえ』
『水城ってお笑い芸人の才能はないなと思ってたけどほんとそうだったよねえ』
好き勝手なことを言うのは、クラスメートの連中だ。女子も男子も次から次へと来てくれている。ジョークだ、笑える、そんなことを言いながらも全員目が赤い。
『お前、今年の文化祭自分が盛り上げるつってたじゃん。嘘かよ馬鹿野郎。自分の言葉に責任持て。世界一のオバケ屋敷作るとか言ってたのどこの誰だよ、ええ?』
――ごめん、クラスのみんな……。
『……ごめん』
そして。そんな俺を責めるではなく、泣きながら謝っていた少女が一人。
サッカー部のマネージャーである、日野リヅだった。彼女は同じ中学出身で、中学校の時の俺が所属するサッカー部のマネをしてくれていたのだった。ちょっと癖のある焦げ茶のボブカットが、今日はいつもよりずっと乱れている。
『ごめん、水城。喧嘩して、死んじゃえとか言ったことあるけど、あれ嘘だから。本当に死んじゃって欲しいとか思ったことないから。……あたし、なんであんな馬鹿なこと言っちゃったんだろ、ほんと、マジ、馬鹿……』
――知ってるよ、それくらい。お前、口悪かったもんな。喧嘩でお前に勝てたこと、マジで一度もなかったわ。
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