2人が本棚に入れています
本棚に追加
ちゃんとわかってるから、後悔なんてしなくていいのに。俺はそう思うけれど、当然俺の言葉は彼女には届かなくて。
ああ、みんなに嘘つき嘘つきと言われたが、自分は日野にも嘘をついてしまった。同じ大学に行こうって、一緒に建築の勉強しようなんて、そんなことを。
なのに彼女はみんなと違って、それを責めることさえしない。ただひたすら、自分のせいであるかのようにガラスに縋り付いている。
『まだ、あたし、言ってないよ』
そして、掠れた声で告げたのだった。
『水城が好きだって、まだ言ってないよお……!これじゃ、返事も聞けないじゃん!!』
ああ、両想いだったのか。俺は唇をかみしめた。
こんなことになるなら、俺の方からさっさと告白しておけばよかった。今日と同じ明日が来ると、当たり前のように信じていたから言えなかったのだ。あるいは、好きだ、なんてとっくに伝わってるんじゃないかなんて愚かな期待をしていたから。
自分はなんて、なんて馬鹿な生き方をしてきたんだろう。こんなにたくさんの人を悲しませて、苦しませて、それのどこが正しかったというのか。
「ごめんなさい……」
そうつぶやいた時、ビジョンが終わった。
気づけば真っ白な空間で、俺は白い人の目の前に立っている。その人はシルエットのようにしか見えなくて、男か女かもわからなかった。
ただきっと、神様のようなものなんだろうと、そう思ったのだ。
『水城映。あなたは、自分の運命がわかっていますね?』
その神様らしき人の言葉に、俺は頷く。
「はい。俺、今夜の山とやら、越えられないんでしょ?」
『……残念ながら』
「その運命、受け入れます。でも、神様なら……お願い、一つくらい聴いてもらえませんかね」
図々しいのはわかっている。でも、言うだけならばタダだろう。俺は、思い切って口にしてみたのだった。
「みんなから、俺の記憶消してもらえませんか。……俺のこと覚えてるだけで、あんなに悲しませるんです。苦しませるんです。俺、死んだあとまでみんなに迷惑かけたくありません」
その言葉に、神様はしばし沈黙した。やっぱり、傲慢だと思われたのだろうか。俺が少しだけ怖気づいた時だった。
『なりません』
彼(ひとまずそう呼んでおこう)はきっぱりと宣言する。俺は慌てて頭を下げた。
「す、すみません。そうですよね、ただの人間がお願い叶えて貰おうなんて、いくらなんでも……」
『しようとすればできます。実際、私は制限付きですが貴方のお願いを叶えるつもりで、ここに呼び出しました。でも、その願いは叶えることができません』
「え?じゃあ、なんで……」
『決まっています。それは、貴方を愛する人達の権利を侵害するからです』
茫然とする俺に、神様は。
『彼等には、貴方と過ごした時間を……楽しかった時間を、幸せだった時間を抱えて生きる権利があります。それを、貴方に剥奪する権利はありません』
最初のコメントを投稿しよう!