卒塔婆山

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 その日の夜。  私は清清しい気分だった。  両親の墓参りができた。私の意見を理解してくれるおじさんに会えた。  そしてこの町を出る決意ができて新しい場所へ行こうとしている。 「今日くらい開けてみようかな」  カラカラカラ。  夜の風景が見える。涼しい風が頬を撫でた。  山の方は騒がしい。  あのバカらしい電飾(イルミネーション)や騒音も今は憎しみではなく滑稽に感じた。  何年ぶりだろう。  あの山が造られて家族がいなくなって、部屋の窓を開けなくなった。  卒塔婆山が死の山だとするならこの窓は死の門だと思った。 「こんなに涼しい風が入るんだな」  私、いろいろ忘れてたんだな。  早朝。出発の日。  昨夜はぐっすり眠れて日の出とともに目が覚めた。 「おじさん起きてるかな」  軽い身体で山へ向かう。朝の空気が澄んでいて気持ちいい。  午前四時。山へ辿り着く。  さすがに早朝とはいえ彼はまだ起きてないだろう。 「寝惚けた顔拝んで笑いながら旅立ってやろう」  ……別れるときに涙見せたくないしね。  視界に急に影が射した。  おかしいな。雨?  その時、  上の方から轟音がした。  見上げると空が真っ黒だった。  違う。空じゃない。土だ。土が空を埋めているんだ。  じゃあ降ってくる黒い槍は雨じゃなくて……墓石?  自分の真上に被さるように迫り降るのは大量の墓石と土砂だった。  近づく轟音。 「バカだなあ。こんなに積むから神さまが怒ったんだよ」  自然とそんな言葉と笑みが溢れ落ち。  私の意識は濁流とともに流れていった。
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