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約束の日の早朝。
地獄の山を嫌ったあの子は天国へと旅立っていった。
現在この場所では平地の上を滑るブルドーザーとトラックが土煙をごぼごぼ出している。
現世に造られた地獄の針の山(あの子談)は無計画な墓石の積みすぎによって雪崩によって崩れ落ちた。
雪崩が起きた早朝、周辺には人があまりおらず山の近くの家は大半が空き家だったため被害の規模は最小限だったと関係者たちは言ったという。
あの子の家も今日から空き家になるはずだった。
たまたま山に向かったあの子だけが犠牲になった。
「神さまってのはどこに目を付けてんだろうな」
たまたまあの時間に下山したまたまコンビニへ寄っていた俺は無事だった。
嬉しかったんだ。
明るくここを旅立つと言った彼女を見て俺も気持ちが晴れやかだったから。
柄にもなくコンビニなんて寄ってしまって。
……自分だけ生き残ってしまった。
手に持つ御守りキーホルダーを握り締める。誰を守ってんだよポンコツ。
卒塔婆山だった場所は工事用の大型車が行き交い、現場作業員たちが忙しなく土砂や墓石の撤去作業をしている。
もうだいぶ平地になった。最初からそこになにもなかったようだ。
「……」
俺はその様子をぼけーっと眺めながら平地の土をかき集め小さな山をつくった。
そこにあの子にあげるはずだったキーホルダーをのせる。
瞬間、小さな山がどしゃっと崩れた。
崩れた山の先には長靴。
「あーあーダメだよこんなトコ入っちゃ! 今作業中だから。出てって出てって」
声をかけ俺を退かすと作業員たちは立ち入り禁止のロープを張る。
「ったく忙しいったらありゃしねぇ」
「『次はもっと墓が収容できるようにさらに広大な土地を使おう』だってよ。どうも××県に候補があるらしくて……――」
俺は立ちあがりその場から見える朱色の屋根の家を見た。
二階の窓が開いていた。
サラサラと星柄のカーテンは吹く風にあおられ揺れている。
「ずいぶん可愛らしいカーテンだな」
もうあの山もあの子もいない。
「世も末だなホント」
そう呟くと、行く宛もなくゆらゆらと蜃気楼のようにその場を立ち去っていった。
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