もっとも大切なことは最後の一回で

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 IDに関していえば社員番号が割り当てられているため、すぐにわかる。  問題なのは、パスワードであった。  通常時は入力情報が記憶されており、IDを入れた時点で自動で反映されたりもするので、一縷の望みを託してログインを実行してみたところ、パスワード欄は空白(ブランク)。  記憶されていればアスタリスクが四つ表示されるが、やはり駄目だったらしい。昨日の夜にシステム更新が入ったせいでログイン情報がすべて飛んでしまっている。  本来なら本人以外はログインしないので無問題だが、こういうときは弱る。  パスワードの初期化、という手もあるのだが、その手続きは課内のシステム担当を介して申請することになっており、三課における担当者は仁科課長本人なのだから、どうしようもない。  そもそも、個人のパスワードを知っているほうがおかしいのであるが、三課ならではの諸事情ゆえだ。  少数精鋭といえば聞こえはいいが、人員をかぎりなく絞っているため、承認権限を持つのが課長ひとり。その課長はなにかと忙しく動き回っており、不在になることが多々ある。  業務が進まない可能性を考えて、課長権限のシステムへのログインが黙認されており、男たちは課長からこっそりパスワードを聞いていたのだ。たしか。  しかし、だいたい自動でログインされるものだから入力する機会もほぼなく、すっかり記憶の彼方だった。
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