跡継ぎの条件

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跡継ぎの条件

ご存じだと思うけど大堀家は、「みしゃくち」様という荒ぶる神を鎮めて封じ込める家だから、「捧げもの」をするのが仕事といってもいい。昔ならば牛や馬、シカやイノシシなんかの首がささげられたらしいけど、今はニワトリやウサギなんかね。 つまりニワトリやウサギを絞めて首を斬り落とせないと務まらないわけ。 だから昔から「血を見るのが嫌」「絞めることができない」「そもそも動物に触れない」なんていう人間は、いくら長男だろうと他のことができたとしても大堀の家では後継ぎになれないの。 魚や蛇なんかは大丈夫でも、体温の暖かいのはダメだという人もいたらしい。先々代くらいに無理やり後継ぎになろうとしたやつがいたらしいけど、嘘をついて他の人が絞めて首を切っているのを捧げたことがバレて追い出されたらしいわ。 ああそうそう「嘘つき」もダメね。とにかく正直であること。そうでないと「荒ぶる神様」を抑えることはできないからと、代々の掟になってる。 さっきやった口伝は、できるようになるのに時間がかかっても大目に見てもらえるんだけど。とにかく捧げものは絶対に後継ぎのものがやる仕事だから。 わたしは口伝はできても、絞めたり首を切って血まみれになったりするのがどうしてもできなくてね。「できるものが後継ぎ」というのが大堀家のならわしだから、わたしは後継ぎ失格ってわけ。 「それは、なかなか厳しい掟ですね。」 「ええ。これは男女関係なく、できるものがやるわけ。真澄はできる子なんでしょう。信彦がどうだかわからないけど、私の勘では多分できないんでしょうね。だから音信不通で行方をくらませてたんじゃないかと思うの。」 「それなのに、今になって財産がどうのっていうのは変ですよね。」 「誰かがあることないこと吹き込んだんでしょうね。とにかく、信彦に会わないとね。」 「真澄さんにはお会いになりますか?」 「そうね後からお墓参りもしたいし。でも驚くでしょうね長年行方不明で死んだことになってる叔母さんが現れたら。」 「そうですね。しかも王族の奥さんですし。」 「驚くことばっかりで申し訳ないわ。」 「そんなことはないですよ。きっと喜んでくださいますよ。」 「そうだといいんだけど。」 にっこりと笑う笑顔は依頼人に少し似ている。
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