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二コラ・オートモービル
ドバイにある二コラ・オートモービル社は、最新式AI搭載の1人乗り自動車を製造販売する世界トップシェアの会社である。その重役室に一人の日本人女性がいた。
大堀ゆりか、現地では「レディ・ユ―リー」と呼ばれている。社長を務めるドバイ首長の8番目の奥さんでもある。
「ユーリー、日本から問い合わせが来ているぞ。そちらに『大堀ゆりか』という女性がいないかって。外務省の弟が『返事はどうする?』って聞いてきたんだが。」
「珍しいわね、いつもなら『そんな女性はいません』って私に聞かずに返事をしているでしょ?」
「ああ、ちょっと知り合いの日本人からの問い合わせだからなあ。なんでもお前の実家のものが困ったことになっているらしい。家の存続にかかわることだから、いるなら連絡が欲しいということだ。」
「それって、私がここにいることは分かってるっていうことよね?」
「そういうことだなあ。だから聞きに来たんだ。」
「わかった。一体何者なの?その問い合わせをしてきたっていう人は。」
「大堀信太郎の娘の代理人だそうだ。娘さんが相続のゴタゴタで家を追い出されそうになっているので、叔母のゆりかさんがいるなら力になってもらえないだろうかと言ってきた。かなりキチンとした筋からの連絡だ。こちらも裏はとってある。裁判所にも相続についての申し立てが出ている。」
「信太郎兄さんの相続・・・。兄さんは死んだのね。その娘が困っているなら、助けてやりたいわ。」
「ユーリーならそういうと思ったよ。プライベートジェットの用意はできているよ。」
「ありがとう、ムハンマド。すぐに戻ってくるわ。」
「時間がかかるようなら、連絡してくれ。日本にある大使館にも最大限、便宜を図るように言っておく。」
「頼りになる旦那様で嬉しいわ。」
「あたりまえじゃないか、ユーリー。いままで君は僕に何も求めてこなかった。そんな奥さんのためだ。なんでもするさ。日本を捨てたといっても家族のために戻っていく君は、やっぱり僕の思った通りの熱いハートの持ち主だと分かって僕も嬉しいよ。」
「あら、お世辞も上手ね。」
「本気で言ってるのに。そういうつれないところも僕のハートをつかんで離さない神秘の国の女性らしくていいね。」
「じゃあ、支度が出来たら空港まで送って頂戴。」
「もちろんですよ、奥さん。喜んで。なんなら日本までお送りしますよ。」
「あなたが来たら大事になっちゃうから、空港までにしてください。」
「きっぱりいうね、ユーリー。そういうところが・・・。」
「はいはい。いいから、私が支度する邪魔をしないでね。」
「おおせのとおりに。」
深々とお辞儀をして去っていく、次期国王のムハンマド。
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