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プレゼント
最近トモキからの連絡が来ない。もう2週間になるだろうか。こちらからメッセージを送っても既読すらつかないし、電話をかけてもむなしく呼び出し音が聞こえるばかり。どうしたのだろう。彼の身になにかあったのだろうか。
心配になり、彼の自宅を訪ねてみようかと思ったところでふと疑念がわいた。
まさかエリカにばれたのか?
いや、そうだとしたら彼女のほうから私に何か言ってくるはず。友人の性格上、夫の不貞を黙って見過ごすなんてことは絶対にしないだろう。
それでもうかつに家を訪問するなんてことは避けたほうがいいかもしれない。
だったらトモキが勤める会社に行ってみよう。ちょうど彼が最後にうちに来たときに忘れていった傘がある。それを届ける名目で呼び出してもらえばいい。
「開発部の佐田さんを呼んでいただけますか?」
自分の名前と来意を告げると、受付の女性はすぐに内線で会話を始めた。
受話器を置いた彼女は頭を下げてから、
「申し訳ございません。佐田は現在体調を崩して休んでおります」
「え?いつからですか?」
「もう二週間ほどになるそうです」
「ああ、そうですか……」
傘をお預かりしましょうかと訊ねられたが丁寧に断り、会社を後にした。
トモキは病気だったのか。それなら連絡が来ないのも無理はない。二週間も休んでいるのなら、もしかしたら入院でもしているのかもしれない。
お見舞いに行きたいという衝動に駆られた。でもどこにいるのかわからない。エリカに訊けばいいのだろうが、なぜ彼が病気になったことを知っているのかと問われたら答えようがない。
でも、とりあえず家に行ってみよう。もしもエリカがいたら、世間話でもして、その流れで彼の現状を聞き出せるかもしれない。
佐田と書かれた表札がかかった家を観察する。雨戸は閉まったままだし、エアコンの室外機も動いていない。誰もいないのだろうか。
恐る恐るインタフォンのボタンを押した。しばらく待っても応答がない。やはり誰もいないのだ。
諦めてきびすを返し、歩き出したところで、
「アベちゃん?」
私を呼ぶ声に振り返った。
玄関のドアが少しだけ開き、友人が顔を覗かせていた。
慌てて駆け戻るものの、なにから切り出せばいいのか迷っていると、エリカが先に口を開いた。
「あ、それ」
視線は私が持つ傘に向けられていた。
「そうなの。これ、トモキさんが貸してくれたの。前に大雨が降ったとき、偶然出会って。ずっと借りたままで返すチャンスがなかったから、持ってきちゃった」
咄嗟に出た嘘を信じたようで、差し出したそれを彼女は素直に受け取った。
そこで気づいた。エリカの顔、なんだかやつれて見える。トモキの容態が思わしくないのだろうか。
「わざわざありがとね」
健気に微笑んで見せた友人は傘に視線を落としながら、
「旦那ったら、どこかに忘れ来た、なんて言っていたのに……」
ここぞとばかりに問いかける。
「そうだ。トモキさんは元気にしてる?今日も仕事よね?直接お礼を言いたかったんだけど」
「うん。旦那にはちゃんと伝えておくから」
え?それって仕事に行ってるってこと?でも会社の人は病気って言っていたのに。ウソをついているのか?私には知られたくないとか……。
「どうかした?」
その声で我に返る。
「ん?なんでもない。じゃあ、私帰るね」
「あ!ちょっと待ってて。すぐ戻るから」
言い残してエリカはドアを閉じた。
数秒経ってから再び姿を見せた彼女は、「はいこれ」と言って小さな包みを差し出した。長さ20センチほどの細長い箱だ。
「直接あなたに届けようと思っていたんだけど、ちょうどよかったわ。これ、あげる」
受け取るとキンキンに冷たかった。冷凍庫に入っていたのだろう。
「え?なになに?」
「あなたが大好きなモノよ」
「えー。なんだろ。チョコかな」
エリカはにんまり笑うと、
「家に帰ってから開けてみて」
礼を言い、私は佐田家を後にした。
自宅に戻り、早速エリカからもらった包みをテーブルの上に置き、解いていく。
さすがは親友だ。私の好きなものを知っていてくれたなんて。
そんなことを考えつつ包装紙をはずし、両手で丁寧に箱の蓋を開けた。
一瞬何か判らなかった。カチカチに凍った何か。
すぐに見覚えのあるモノだとわかり、悲鳴を上げてテーブルの上から払いのけた。
床の上に箱の中身がごろりと転がる。
それは、トモキの身体の一部だった。
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