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「コハル先輩!」
ミフユの声が後ろから聞こえる。振り向くと、彼女が心配そうにこちらを見ていた。視線を逸らし、気まずさがこみ上げてくる。初心者のミフユがこんなにも頑張っているのに、周りに気を遣えてている。私は自分のことで精一杯だっていうのに。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。なんか雰囲気悪くしちゃって」
ミフユの真っ直ぐな目が胸に突き刺さる。私は、情けなくて、恥ずかしくてたまらなかった。「練習、戻ろっか」と半ば強引に体育館に戻ると、先ほどの練習とは打って変わり、みんなが一生懸命に練習を続けていた。
「ほら、まだ走れるよ!」
「もう一回!」
私が休憩を提案したのに、みんなは自主的に練習を続けていたのだ。驚きと同時に、彼女らの頑張りが心に染み渡る。
「部長、遅いよ」
仲間が笑顔でそう言い、ミフユも微笑みながら私の背中を軽く叩いた。
「雰囲気が悪くなったなんて、そんなことみんな思ってませんよ」
そう言いながら、ミフユは軽やかにみんなの元へ駆け寄っていく。ミフユの姿を見て、本当に変わったなと思う。
入部当初は過度なほどまでによそよそしくて、ハイタッチを求めると決まって苦虫を嚙み潰したような顔をする。また、視線に敏感で、静けさが苦手だった。最近はかなりマシになってきたけど、未だにフリースローはてんでダメで、練習でも入ったところを一度も見たことがない。
そんなミフユも、今では嬉しそうな顔をしてハイタッチを交わしている。少しずつ、そして超速で成長しているミフユが頼もしくて、羨ましかった。
「ありがとう……よし! やるか!」
後輩に励まされ、私は再び奮い立った。不甲斐ない分は得意なバスケで尽くす。それが今の私にできる、唯一のことだから。
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