10.

1/2
前へ
/10ページ
次へ

10.

「コハル」  コート上の熱気が観客席にまで漂っていた。試合の準備を始めようとしていたとき、背中から声をかけられ振り返ると、そこにはチアキがいた。 「チアキ」  名前を呼び返す。彼女は、元チームメイト。私のトラウマの中にいる一人だ。でも今日が最後になるだろう。バスケは好きだけれど、進学してまで続けるつもりはないから、これが最後の試合だ。 「シュート、打たせないから」  その言葉に心臓がドクンと跳ねる。もともとシュートを打つつもりはない。いつものようにゲームメイキングに徹しようと思っていた。でもチアキは、そう宣言してきた。この三年間大会がある度に対戦してきた。一度も打ったことないのに、未だに私が打つと思っているのか。 「それだけ」  チアキは振り向きざまにそう言い放ち、そのまま去って行った。  心臓がうるさいほどに高鳴る。でも私は、自分に「打たない」と言い聞かせる。一人で勝っても意味ない、孤立するだけだ。また同じことを繰り返すつもりなのか、と。  でも、と利き手の人差し指と中指を親指でさする。それから、拳を握って力を込める。どうしてこんなにも胸が高鳴っていて、そして動揺しているのか、自分でも分からなかった。 「コハル先輩?  アップ行きますよ?」  ミフユが駆け寄ってきた。彼女のいつもの表情が、私の心を少しだけ落ち着かせた。 「今行くよ」  そう答えながら、拳の力を緩める。もう、誰に何を言われても、私はシュートを打たないと固く決意した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加