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10.
「コハル」
コート上の熱気が観客席にまで漂っていた。試合の準備を始めようとしていたとき、背中から声をかけられ振り返ると、そこにはチアキがいた。
「チアキ」
名前を呼び返す。彼女は、元チームメイト。私のトラウマの中にいる一人だ。でも今日が最後になるだろう。バスケは好きだけれど、進学してまで続けるつもりはないから、これが最後の試合だ。
「シュート、打たせないから」
その言葉に心臓がドクンと跳ねる。もともとシュートを打つつもりはない。いつものようにゲームメイキングに徹しようと思っていた。でもチアキは、そう宣言してきた。この三年間大会がある度に対戦してきた。一度も打ったことないのに、未だに私が打つと思っているのか。
「それだけ」
チアキは振り向きざまにそう言い放ち、そのまま去って行った。
心臓がうるさいほどに高鳴る。でも私は、自分に「打たない」と言い聞かせる。一人で勝っても意味ない、孤立するだけだ。また同じことを繰り返すつもりなのか、と。
でも、と利き手の人差し指と中指を親指でさする。それから、拳を握って力を込める。どうしてこんなにも胸が高鳴っていて、そして動揺しているのか、自分でも分からなかった。
「コハル先輩? アップ行きますよ?」
ミフユが駆け寄ってきた。彼女のいつもの表情が、私の心を少しだけ落ち着かせた。
「今行くよ」
そう答えながら、拳の力を緩める。もう、誰に何を言われても、私はシュートを打たないと固く決意した。
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