09.

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09.

「そういえば、なんでコハル先輩はシュートを打たないんですか?」  ミフユの声が蒸し暑さの残る夜風の中に響いた。私は一瞬、その質問にどう答えようかと迷ったが、隣に歩く後輩(ミフユ)の真剣な表情を見て、軽く笑ってみせた。 「ポイントガードだからね。チームのためにパスを回すのが私の役割だから」 「でも、それにこだわりすぎている気がします」  ミフユの反論は予想外だった。彼女は数か月前にバスケ部に入部した未経験者だ。「さすが、一番の素人が言うことは違うね」と、私は少しおどけて言った。「むぅ。バスケは素人でも、スポーツは経験者です」と、ミフユは少しむくれて返してくる。  数か月前にミフユが「一緒に頑張って、くれませんか?」と入部を決意したときの姿が浮かんだ。それまではバドミントン選手でここらでは有名なほど強かったらしい。しかし、バスケへ転身した。何があったかは知らない。でもその過去を乗り越えようと必死に努力してきたのは知っている。その成長に、私も勇気をもらっていた。 「明日対戦するチームにチナツって子がいるけど、知り合い?」  私の質問に、ミフユは少し視線を落とし、戸惑ったように答えた。「知り合い、というか、なんというか……」ミフユが何かを抱えていることは知っていたが、深く追及はしなかった。むしろ、彼女自身がその問いに答える日が来ることを信じていた。 「もし大親友で争いたくないって言われたら、スタメンから外そうかと思ってたけど大丈夫そうだね」  ミフユは驚いた顔で、「スタメン?」と問い返した。 「うん、まだ言うなって言われてたけど……まぁいいよね」  ミフユの顔に浮かんだ喜びの表情に頼もしさを感じる。委縮せずに、前日とはいえこの落ち着きよう、本当に心強い。さすが別競技の歴戦の猛者だ。 「明日は全力で勝ちに行きましょうね」 「当然。ミフユの友達だろうが、誰であろうと手加減しないから」 「……退場はやめてくださいね」と、ミフユは冗談混じりに返した。二人の掲げた拳が、静かに触れ合う。数か月前はクリームパンのようだったその手が、今ではしっかりと握り締められている。ミフユの成長を目の当たりにし、私もまた前に進む決意を新たにした。  
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