放っておけない少年

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放っておけない少年

 遠道 大夢(えんどう ひろむ)は中学2年生の背が小さめなのがコンプレックスながら元気いっぱいの少年だ。友達は多く、勉強はちょっと苦手、体育は得意。ひとつ変わっているのは迷子を保護する率がとても高いこと。人間だけじゃなく動物、果ては落とし物。必ず家まで、持ち主まで届けるのがいつの間にかモットーになっている。  「ちょっと行ってくるー、先生に伝えといて!」  ほら、今日も登校途中にうろうろと心細そうな高齢の男性を見つけてクラスメイトに伝言頼んで走って行く。頼まれたクラスメイトも慣れたもの。  「おー、気を付けて行けよー」  信号のない横断歩道を右左右左と念を入れて確認して男性の(そば)へ。びっくり顔の男性に明るい顔で問いかける。  「お困りの様子が気になって、何か助けになれますか?」  知らない人に声をかけてはいけないと言われがちのこの時代、男性も少し警戒したようだが大夢(ひろむ)の雰囲気はそれを解除する。  「子どもの頃に住んでいた家に行きたいんだ。でも肝心(かんじん)の住所がおぼろげで……」  「そうなんですね。じゃあ、何か特徴はありますか?」  「……クリーム色の三角屋根、庭には(やなぎ)が……僕と同じくらいの背だった。20年経ってどうなっているか……」  大夢は自分の記憶をチェックする。今までの案内の中で柳の記憶がある。少し奥まったところで大きな柳が昔話の幽霊が居そうな感じで揺れていた場所。  「柳はおうちの玄関に近いところですか?」  「あ、ああ、そうだ! 昔は七夕の笹代わりにしていたこともある」  (よみがえ)る記憶に目を細める男性を優しく見守り、導くように斜め前へ。なぜかわかるのだ。彼の行きたいところと自分の感覚が一致したと。わさわさと風に揺れる柳のカーテンが少し離れていても見える位置に来ると男性は足早に駈け寄った。大夢は後を追いながら上を見あげる。色あせて所々()びているけれど確かに淡いクリーム色の屋根だ。  「ああ、間違いない! ここだ! 柳、大きくなったなぁ……」  目を(うる)ませて笑みを浮かべる男性に大夢もうれしくなる。  「良かったですね」  「君のお陰だ。何とお礼を言ったらいいか……学校も遅刻してしまったんじゃないか?」  「気にしないでください。そういう性格なんです」  大夢の顔には大満足と顔に書いてある。男性は申し訳なさそうに、でも、心から感謝の笑みを浮かべた。  「本当に、ありがとう」  「辿(たど)り着けて、良かった。それでは、僕はこれで」  何かお礼をという言葉に首を振って、代わりに手を大きく振って駆けだす。学校の一限目途中(いちげんめとちゅう)には間に合いそうだ。困っている人が笑顔になる。何となく柳も家もうれしそうに感じた。そんな互いに優しく(ゆる)む空気を感じるのが大夢は好きだ。だから、遅刻で叱られても、危ないことに巻き込まれたらどうするんだと怒られても迷子だと感じたら走ってしまう。大夢は迷わない。
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