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「皇帝陛下を詛ったという貞人は、まだ捕まらないそうですわね」
探りを入れてくれ、と、頼んでおいた妓の声だ。
そうだ、と答える酔いとれた女の声は、この邸宅の主だろうか。
「足跡を追わせているが、途中で途絶えている」
「それじゃいくら俊英揃いの朝官がたでも、お手上げですわね」
妓は相手の自尊心をくすぐって、話を聞き出しにかかる。とりたてて優れた話術ではない。しかし、邸宅の主人は、”特別な技能を持つ”この妓を気に入り、こうして自宅にまで呼んでいるほどだ。そんな相手に水を向けられて、舌の滑りが悪いわけがなかった。
「そうでもない、探索を、京師付近に存在する反政府地下組織の拠点へと広げている」
「あら、なぜ?」
「貞人の死体は出ていない。誰かが匿っていると考えるのが自然だろう。だが、あの貞人には係累がない。頼るならどこかの幇だろう」
「幇なんて、無頼や賊の集まりなんでしょう? そんなところに逃げ込んだんじゃ、もうどうしようもないですわ、怖い」
「案ずることはない。近々、大規模な賊狩りの令が出される。連中を叩けば、すぐにおたずね者は見つかるさ」
幇主と春宵はそっと顔を見合わせた。大規模な賊狩り。
そうなれば、爛石も無事では済むまい。
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