五章 離別

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「このごろ、爛石(うち)の縄張り近くに、兵の姿が増えたな……」 爛石の拠点にかえって数日後のことだ。そんな愚痴が聞こえて、甲骨板を制作していた春宵は振り返った。 すると、慌てた厨師が、厨房から必死にかぶりを振っていた。 「いやいや! 先生のせいじゃないよ!」 先日、京師の宴で仕入れた賊狩りの話を思えば、あきらかに春宵のせいだろうが、全力で気を使われた。 その場は取り繕われたが、人の声はあらゆるところから漏れ聞こえるものだ。 「取り絞まりがいつもより厳重だ、茶を売りにくい……」 「物資を買い出しにいくのも不便になった」 爛石構成員のそんな不平を耳にする機会が、日毎に増えつつあった。 春宵はややいたたまれない気分になりながらも、できることといえば、甲骨板作りくらいで、骨と向き合うほかなかった。
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