21人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、朝光がゆらめく川床には、さまざまな物が浸かっていた。
硯は割れ、筆は命毛が曲がり、焼灼棒は折れていた。砕けて川石と同化しているのは予備の甲骨板だろうか。
春宵は水の中から商売道具を回収しながら、今朝のことを思い出す。
朝、目が覚めると、枕元の私物がごっそり消えていた。山中を掻き分け血眼で探せば、このふだん使いの水場へ行き着いた。
道具はどれも汎用品。高価でも稀少でもない。換えはきく――だが問題はそこじゃない。
この山には、爛石の仲間しかいない。
親しさの下に隠された悪意を見てしまったような気分だった。先祖伝来の技を、賭博なんかに使った貞人への、これは天からの報いかもしれない。
ぼんやり紗がかかったような頭でそんなことを考えていると、ふいに視線を感じた。
眼をやると、山中の草が揺れていた。
腕が、薄く粟立っていた。罪のしるしのように。
最初のコメントを投稿しよう!