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幇主、と、また誰かが小さくこぼした。
「今までは地方官吏に鼻薬を効かせてうまくやってきた。ですが、今回は違う。相手は中央だ。我々も、もとは中央にいたんだ、わかるでしょう、〝天子の威光〟ってやつの威力が」
幇主は少し考えこむように目を伏せた。
「いざとなったら、方法は一つね」
打って出るのか、という声が幹部から上がった。
「まさか。わたしたちがこの山を住処に定めて、かなり経つ。住みやすくするために、骨を折ったわね。名残惜しいわ。けれど爛石はどこでだってやっていける」
幹部たちはほとんど反対するようにざわついた。住み慣れたこの竹林を捨て、放浪者となるという幇主の案に。
しかもその放浪は、いつ終わるとも知れない。不安の始まりでしかなかった。普段従順な構成員も、今度ばかりは唯々諾々と幇主に従ってはいられないのだろう。
必然、構成員の視線は春宵に集まっていた。
はじめはすまなさそうに、遠慮がちに。隣の者が自分と同様の挙動をしていることを察知すると、だんだんとあからさまに――責めるように。
幇主が卓を叩いて自分に注意を向けさせた。いつもは話術で組織をまとめるやりかたを好む幇主にしては、随分余裕がなかった。
「――先生を匿うと決めたのは、このわたしよ。先生への不満は、わたしを通してちょうだい」
幇主の擁護は、春宵への構成員の目をさらに冷ややかにするだけだった。
「みな、今夕は少しどうかしているわ、頭を冷やしなさい。この話は終わりよ」
幇主は一方的に話を切り上げ、春宵を引きずるように連れて、その場を退室した。
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