五章 離別

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幇主は天を仰ぐ。その眼も天の色と同じように光がなかった。笑わずの幇主は、口元だけを皮肉っぽくゆがめた。 「国府はわたしからまた、わたしの財物を奪っていくわけね」 「ごめんなさい幇主、たくさん協力していただいたのに、結局最後まで侶伴でいられませんでした。私は幇主と同じ地獄には行けないみたいで――」 遮るように、幇主が唇を塞いできた。唇と唇が重なって、幇主の舌が、春宵の唇の割れ目から当然のように滑り込んでくる。一切の反駁の言葉を奪うように。もう何も言わなくていい、全部わかっている。そんな口づけ。 爛石に来てから、ずっと幇主と添い寝しているから、春宵は幇主の体温に抵抗がなくなっていた。 いま唇を深く重ね合うのはその延長で、それでも足りなくて指先を絡めた。幇主にはそのくらい長く関わってきた。だから相手を思いきるけじめに、そういうお別れの挨拶が必要だと感じられた。 冬の林は凍てて、相手の温みからひどく離れがたかった。そこに既に侶伴の契約がなくても。 もう少しだけ二人だけでいたっていい。夜は官衙が閉まっている。時はまだ少しだけある。
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