24人が本棚に入れています
本棚に追加
星の頭部に違和感が走った。違和感は即座に激痛に変わる。
鏃が掠めた、と理解したときには、肩と腿にも矢が突き立っていた。
急所をわざと外された。官位のある反逆者の抵抗をくじき、捕縛するためだ。星はよく知っている。大逆の罪人を、その場で殺さず、刑場でむごたらしい死を殺すことこそが、この朝の犯罪抑止の手法だと。
星の頭に万回の死がよぎる。逆転の材料は浮かばない。黄の衣も視界もなまぐさい深紅一色に染まっていく。
その世界で、ただひとつ、染まらない緑の光があった。
目に飛び込んできたのは、円環。
床に飛び散った貞人の所持品の中で、それだけが、あきらかに異質だった。
星は、誘われるようにその翡翠の玉佩を手に取った。
川淵のような、暗く静かな色。神気とでもあらわすべき、清らな格調を持ち合わせている。それだけでもただならぬ品だが、星を驚愕させたのは、そこに浮き上がる意匠。そのあしらいは、世界でただ一人だけが使うことを許された――二角五爪の龍。
二角五爪は天子の象徴。それは国の誰もが知っている。
これだ。
すかさず星は立ち上がり、
「見よ!」
その佩玉を百官の前にかざしていた。
最初のコメントを投稿しよう!