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嘘だ、そいつは陛下を詛った貞人だろう、などと、未だくすぶる反対勢力の中から声が挙がる。それを星は咳払いで制した。
「一連の呪詛騒ぎは、じつは貞人どのにも因がある。貞人どのの一族は、在野にあって、陛下の密命を受け、よからぬ考えを抱く者を何人も呪詛してきた影の一族だ。そして、本日の尊いお働きで、すべての内憂が払拭された。本日の宮城内での火災はその副産物だ」
「では、陛下に毒を盛っていたというのは――?」
「宮中の闇を誰より見つめた者であった、とだけ言っておこう。済んだことだ。陛下に仇成す者は、既に討たれた。あえて名を明らかにして、陛下の治世の晩年を穢すべきではない」
星は意味ありげな哀愁を体から立ち上らせた。あとは皆が適当に想像するだろう。
ちなみに星は、天子が出奔したことを知らない。天子の死因は、天子になったことだと思っている。皇帝とは激務なのだ。つまり過労死だ。そして自分の死因も、玉座上の過労死であって欲しいと願った。
まだ不満顔の者へは、すかさず貞人が相手をした。貞人はそれらを半眼で睥睨すると、おとがいを上げて尊大に放った。
「――なおも星氏の新王朝を穢すご意志をお持ちの方がおられるようですね。お望みとあらばこの楊春宵が、お一方ずつ、いのり殺しますが、いかに」
天子の密命でたったいま罪人を呪殺してきたらしい貞人直々の呪詛宣言。呪詛を未だ信じる生きる社会で、これ以上の脅しは存在しなかった。
午門は、今度こそ静まった。
その沈黙へ、宮人たちの高い声が滑り込む。
「新たな天子の誕生を、お祝い申し上げます!」
唱和の声が、午門の前庭に響き渡る。
そこへ星の即位を肯定する一派の声が重なる。中立を決め込んでいた面々も、形勢が新しい朝の成立に傾くのを見て取って、ええいままよと、唱和に加わった。
それは宮人と貞人と星の、勝利宣言だった。
その日、歴史は動いた。
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