一章 高貴な依頼

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染めていない、麻の男物に袖を通す。 さきごろ、男の旅行者が数十年ぶりにこの国を訪れ、たいそう珍しがられて、国賓待遇で宮中晩餐会に招かれたのだそうだ。 ここは千年来の女人国。 かつて男の職業だったものも、今ではすべて女が担う。貞人(ていじん)もそうだ。 春宵が銅鏡に向かって襟を整えれば、緊張でこわばった顔が映り込んでいる。 ややつり上がった目は無駄に大きく、眉は短い。髪は何度押さえても癖毛が波打つ。小柄なこともあって、笄礼前と間違えられて、よく市で秤をごまされる。今年で二十一なのに。
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