一章 高貴な依頼

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春宵の商売――貞人は、年を経た者が信頼を集める。 威厳を出すためにいっそ脂粉(おしろい)をはたき、紅を刷こうか。これから向かう場所が場所だけに、この童顔……よく言えば丸顔には、もう少し年齢感を「盛った」ほうがいいかもしれない。 そんなことを考えていると、情けない音を立てて腹が鳴った。 そうだった。粟と稗ですら数日前に尽きていた。脂粉や紅があるわけがない。 けれど――それも本日限り。 今日は特別な依頼の日。無事こなせたら、ほうぼうに作った借金も清算できる。卵用に飼っている鳥たちの腿あたりを眺め回しながら雑穀を食べる生活ともお別れだ。 きらめく明日を想像すると、腹の音は止んだ。 荷を厚手の布に三重に包んで肩から斜め掛けし、胸の前で縛って固定すると、戸締りをして家の扉に手をかけた。
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