おたずね貞人と笑わずの幇主

一章 高貴な依頼

「お迎えに上がりました、楊貞人」

春宵の姿を見とめ、絢爛な轎の周りにいた官吏らが一斉にかしづいた。

その異様な事態に、様子を窺っている近隣住民が、さらに震え上がる。

春宵は、轎に乗るための踏み台にあしらわれた真珠たちを沓の裏で感じる。これが雲を踏む感触か、という納得感があった。

数十代前の楊家は、日常的にこうしていたらしい。だが世間が貞人を求めなくなって、楊家は没落した。

今日は一日だけ、楊家が、かつての待遇に戻るだけのこと。誇り高き楊家の末裔たるものが、轎の内装の金装飾のまばゆさに気後れしている場合ではない。と、春宵は自分に言い聞かせる。

そうだ、今日の依頼は、始まってすらないのだから。