一章 高貴な依頼

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春宵は、よろけながら轎を下り、あたりを見回した。 光に目が馴染んでくると、巨大な門が眼前にそびえていた。門というよりは、二階建ての建物が主役で一階部分に扉がついている、と言った方が正確だ。 「午門(ごもん)……」 門上の扁額を、春宵は声に出した。 「さよう、ここは慶事や祭事に、陛下が百官と相対する場です。すなわち、これより先――宮城内に進めるのは、選ばれた者のみ。神聖な場であることをお忘れにならず、くれぐれも粗相のなきよう」 婉曲に居眠りを指摘されてしまったが、それもやむなしだろう。 宮城は、至尊の方々の居城にして、政治の中枢。平時なら、庶人が立ち入れば処刑だし、ここで行き交う人は本来一生、春宵とかかわることのない、雲の上の存在ばかりだ。
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