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……頬に冷たいものが触れ、目を開けた。
曇天からちらちらと落ちてくる雪だと理解したところで、段々と今の状況を思い出してきた。
昨晩は呑み屋で気性の荒い男に詰め寄ってしまい、外に出されて殴りつけられ、そのまま道端で気を失ってしまったのだった。
呆けたまま雪が降るのを眺めている内、ふいにさくらは故郷の山に戻っているのではないかと気がついた。そうと気づけばN県へ向かうしかない。さくらに会えるのなら地獄の果てにだって喜んで行こう。
登山道を登り始めた途端、何者かに招かれているような、それでいて拒絶されているような、奇妙な心持がした。
更に登って行くうち少女の囁き声が聞こえ、そちらへ顔をやると人影が見えた。
「……さくら?」
人影は駆けだして行ってしまう。当然追いかける。
「さくら、」
囁き声や笑い声が増えていき、人影を見失ったと思えば別の人影が現れる。
「さくら、さくら、さくら!」
彼女達はさくらじゃない。でもさくらを知っている。確信があった。
導かれるまま洞窟に入り、奥へ進んでいくと開けた場所に出た。
氷柱に囲まれたそこにいたのは曖昧な影ではなく、圧倒的な存在感を放つ人の形をした人ならざる者だった。
こちらを睨む険しい表情ながら、さくらと似た容貌のこの女性は。
「さくらの……お母様……?」
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