溺愛理由は無自覚転生?

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「やっと……見付けた……」 その声に振り返った私は、思わず持っていた買い物かごを落としそうになった。 金色の髪の毛はサラサラと、まるで風が友達になっているかの様になびいている。 空よりも美しい青色の瞳は宝石のようにキラキラと輝いて、こちらをジッと見ていた。 弧を描く唇は喜びを表し、思わずこの目に映る姿を切り取って残したいぐらいに美しい――そんな男性が突然にこの村に湧いたのだから、そりゃあ物も落としたくなってしまうというものだ。 「僕はキミの事を、ずっと探していたんだよ。我が麗しのルシェーラ」 「……ルシェーラ?」 因みに、私の名前はエルミリア。 ……なんてことだ、完全に人違いじゃないか! 「まぁ、こんなに都合良く『運命の出会い』なんて転がっていないよね……」 遠い目をしながらそう呟いた私に、目の前のキラキラな男の人は近付いて。 「左手を出してくれるかい?」 と言った。 「あの、私はそのルシェーラさんとは別人ですよ。私の名前はエルミリアと申します」 「そうか、僕も今の名前はシャルジュでは無いよ」 「はぁ……」 困惑している内に、元シャルジュさん(?)は私の左手を取って。 「また別れ別れにならない様に、今度はちゃんと繋いでおこうね」 と、笑顔で淡いグリーンに光る腕輪を私に装着してしまった。 「何これ……?」 私は腕輪を見つめ、首を傾げる。 すると目の前の人は弾ける笑顔で信じられない様な言葉を述べた。 「これは魔法の腕輪だよ。この腕輪があれば、もう僕たちは決して離れ離れになる事は無いんだ」 とても満足そうな彼に比べて、私は慌てる。 「ちょ、ちょっと待ってください。離れ離れにならない魔法の腕輪……? 一体、何を言っているんですか?」 「僕にも、ほら。同じ腕輪をしているだろう?」 彼は自分の右手を見せた。確かに、私のものと同じ腕輪が嵌められている。 「これはお互いの位置も分かるし、一定以上の距離が離れると魔法によって引き寄せ合う力が働くんだ」 「でも……私は本当にルシェーラという人じゃ無いんです。私はただのエルミリアで、普通の村娘なんですよ」 焦る私に、にっこりと微笑む彼。 「ルシェーラ、僕には分かっているんだ。君の魂は前世のルシェーラそのものだって事が」 「前世……?」 何を言ってるのだろうか、都会の人の流行りの冗談? しかし目の前の綺麗なブルーの瞳は、とても真剣そうに私を見つめた。 「僕はキミを失う様なことには二度となりたくない。だから、キミを守る為にこうしたんだ」 私は言葉を失った。 確かに、目の前の彼は本気だ。その言葉に込められた決意や愛情と思われるものが、私の心の奥底に響く。 けれど、私の心は混乱していた。前世の記憶なんて一つも持っていないし、彼の言うことが本当かどうかも分からない。 「すみません、少し……いや、色々と情報をくれませんか?」 「おっと、キミに会えた事が嬉しくてつい事を急いてしまったね。聞きたい事はなんだい?」 「まずは貴方の名前を教えてください」 「だから、シャルジュ……」 「『今』の! 名前を教えてください」 「それってそんなに重要かい?」 「はい、私は知りたいです」 「仕方がないね、そんなに気になるのなら……。僕の今世での名前は、ルードリックだよ」 「じゃあ、ルードリックさん」 「そんな他人行儀な呼び方はしないでおくれ」 「いや私達、今日が初対面ですからね!?」 そう言うと、ルードリックさんはシュンとなった。 「そうか……。キミには、本当に前世の記憶が無いんだね」 「なんなら一昨日の晩ごはんの記憶も無いです」 「あはは、そんなに忘れっぽいと困るだろう?」 「別に困りません」 今の一番の困りごとは目の前のこの人だし。 そう言いたい気持ちをグッと堪えて、私は自分の家へとルードリックさんを案内する事にした。
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