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いつもの道を帰っている筈なのに、私の心はザワついていた。
どうしてこんな事になってしまったのだろう?
唐突すぎるし全く分からない。
「ルシェーラ、僕の事が不思議なのかい?」
不思議に思わない方がどうかしている。なんなら、新手の詐欺だと言われた方がまだ納得出来る。
「私の事は、エルミリアと呼んでください」
「何故?」
「何故って……。それが私の名前だからですよ」
そう、例え前世がどうであろうと私は私。エルミリアとして16年間生きていたのだから、そう簡単に別の名前にはなれない。
「そうか……。僕達の関係を、また最初からやり直そうとしているんだね。もう一度、あの『ときめきの日々』を!」
ルードリックさんは笑顔で答えた。な、なんてポジティブな人なんだろう。
「分かったよ、エルミリア。僕はもう出会った頃の胸の高鳴り以上のドキドキを感じているけれど、キミがそう望むのならば」
そう言って、恭しく手の甲へとキスをするルードリックさん。
「……所作がまるで騎士様の様ですね」
照れ隠しに私がそう言うと、
「いや、前世でも今世でも騎士では無いかな。今は王子ではあるけれど」
「王子様!?」
確かに、あのキラキラは王子様っぽかった。けれど、まさか本当に王子様だなんてそんな事ある!?
「おや? どうしたんだい、可愛い瞳も唇もそんなに開けて」
「王子様が一体どうしてここに? 追放でもされたんですか?」
「ふふっ。僕は幼少の頃からキミを探し回っていたから両親には呆れられているけれど、まだ勘当はされていないよ」
「やっぱり周りの人達からも引かれているんですね……」
「僕が惹かれているのは今も昔もキミただ一人だよ」
違う、そういう事じゃ無い。
「でも、首都ってかなり遠いですよね?」
「キミを見つける為に、国中を探し回ったんだ。絶対に同じこの世界にキミがいると思って」
「凄い自信ですね」
「そうでも思っていなければ、気持ちがおかしくなってしまいそうだったんだよ」
「それは……お疲れさまです」
きっと、お付きの人達も苦労したに違いないんだろうな。
「そしてようやく見付けたキミが、こんな辺境の村にいるだなんて……。ルシェーラ、いやエルミリア。キミは僕の全てだ」
と、ルードリックさんは力強く言った。
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