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その贈り物には、大きなリボンが掛けられていました。
ピンク色のリボンを解いた箱の中にいたのは、赤色のワンピースの似合う女の子でした。贈り主は分かりませんでしたが、ブロンドヘアがチャームポイントである彼女をリリィは一目で気に入り、ナミと名付けました。
いつもナミと一緒に過ごすリリィに対して、村人たちは眉をひそめていました。
「気味が悪いわ」
「あの子、人形としか話せないのよ」
「母親が病死したせいで、おかしくなったのかしら」
小さな村で、どうやらリリィの存在は異質に映ったようでした。
実際、リリィは言葉を発する事ができませんでした。しょんぼりとうなだれるリリィを、ナミは励ましました。
「リリィはおかしくないわ」
ナミは人形なので声を出す事はできません。しかし、リリィとだけ言葉を交わす事ができたのです。
「リリィは選ばれた子なのよ」
それはある夏の日、リリィが六歳だった時の出来事でした。
それから一年が経った頃、来客がありました。
「こんにちは」
黒いマントを羽織ったおじさんは、大きな帽子の下でにこやかに笑いました。
「道に迷ってしまってね。しばらく休ませてくれないかい」
リリィはナミを抱いたまま、黒いおじさんを見上げて呆然としました。リリィの暮らす、家とも呼べないほどボロボロの小屋に訪れる村人など、今までにいなかったです。初めての来訪者をリリィは警戒しました。二年前に亡くなったママからは、知らない人には気を付けるように散々注意を受けていたからです。
だけど、他に知っている人なんてひとりもいません。おじさんの登場によって押し寄せた真実にまばたきを繰り返していると、腕の中にいるナミがリリィにそっと耳打ちしました。
「リリィ、大丈夫よ。この人は悪い人じゃないわ」
ナミの言葉に反応を示したのは、リリィだけではありませんでした。
「おや」
おじさんは何かに気付いたように目を丸くしたのです。リリィは咄嗟にナミを隠そうとしました。しかし、おじさんは村人たちのようにあざ笑うわけでもなく、無理強いをするわけでもなく、静かにリリィに訊ねました。
「この子の名前を何と言うんだい」
「ナミよ」
答えたのはナミです。
「ほう、ナミ。いい名前だ」
リリィは驚きました。やはり、おじさんにはナミの言葉が聞こえているのです。
おじさんはマント姿のまま砂まみれの床に座りました。マントの下に見えるシャツやズボンも、黒色です。脱いだ帽子の下から現れた短い髪は、リリィの髪の毛と同じ赤色でした。
「ナミは正しい」
おじさんは軽快に語り出しました。今年の夏には何が豊作か、雨はどのくらい降るのか、これまでに出会った動物の話、そして、村の外での話。おじさんは、旅人のようでした。村にはない草木や花の話を、ナミは真剣に聞いていました。
その日からリリィの家で寝泊まりを始めたおじさんは、昼間には古くなった小屋を修理したり、庭の雑草をむしったりと、よく働いてくれました。
「リリィ、ナミ。楽しい時間をありがとう」
三日目の朝、おじさんは帽子を手に持って言いました。
「リリィ、君は素敵な女の子だ」
リリィをそのように言ったのは、おじさんが初めてでした。
「そしてナミ。これからもリリィの力になりなさい」
そして、おじさんはやって来た時と同じように帽子をかぶり、黒いマントをひるがえして去っていきました。
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