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タンポポの夢
当たり障りのない返しが思い浮かばずに黙っていたら、タンポポがふふっと笑った。
何が面白いのか尋ねたら「お店の花もおしゃべりできるんだねぇ」と歌うように答えた。
「しゃべれるけど、寿命を縮めたくないなら黙るのよ。私たちには根っこが無いもの」
「なら、マーガレットはよほど話好きなんだ」
「そうね! 私の声が人間にも聞こえるなら、買ってよと一生懸命アピールするくらいには。通じなくて残念だわ」
「マーガレットの夢は、人に買ってもらうことなの?」
タンポポに聞かれて、自分の願いを振り返る。
「私は……私の価値が分かる人に買ってもらいたいわ。そして大事に飾ってもらうの。それか大きな花束の一部になって、名誉な場を華やかに飾って、人々の賞賛を浴びたいわ!」
「そうなんだぁ。わたしはね、花占いに使ってもらいたいなぁ。誰かの恋心を後押ししたくて」
「ええ? それじゃ綿毛になれないじゃない? 子孫を残せるのにチャンスをつぶすの?」
私みたいな商品は名誉の死を迎えるけれど、野花はそうじゃない。人知れず咲いて散っていく。
代わりに、子孫を残せるのに。
その利点をいかさないなんて、もったいないじゃない?
心からの疑問を言葉にしただけだったのに、タンポポは苦笑いしたようだった。
「それは……やめとこうかな。綿毛のときはあまりいい思い出がなくて。ここに根付く前、悲しい人達を見てさ。そういうの、もう見たくない」
「悲しい人達?」
「ケンカをしていて」
「それがどうかした?」
「わたしに何かできなかったかなぁって、今でも考えちゃう」
タンポポが何を言いたいのか、よく分からない。
生きてきた環境が違いすぎるせいかしら?
小さな花が咲いてようがなかろうが、人のケンカがおさまるとは思えない。
「踏まれるだけよ」
「そしたら、踏んだ地面に花が咲いてたと気づくでしょ? 冷静さを取り戻すきっかけになったかも」
「変なの。自分を認めてくれるかどうかも分からない人たちの前で咲いて、しかも踏まれてもいいだなんて」
花とは、美しいと求められ買われることが至上の幸せよ。
そうおじさんが言ってたもの。だからキレイに咲くんだよって。
「ふふ。わたしも踏まれるのは嫌だけどね。一番は花占いで使われることだし」
「ふうん」
花占いについても、おじさんが話してくれたから知っている。
せっかくキレイに咲いても花びらをもがれるのは嫌だわとしか思わなかったけどね。
だから、やっぱりタンポポが夢にまで思う気持ちが分からない。
「変なの」
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