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女の子
そんな話をしているうちに開店時間になったらしく、入口から客が入ってきた。
花束が欲しいみたいね。
店主と話す内容に集中する。
ピンクの花で、と聞こえた瞬間、期待が外れて葉っぱが萎えそうだった。
まあ、最初から上手くいかないわよね。
別の足音に今度こそと意気ごむ。
でも、入口を見た段階で私はあきらめた。
だってそこにいたのは、小さな女の子だったんだもの。
母の日のカーネーションでも買うんでしょう。私はお呼びじゃないわ。
ほかにお客さんが来ないか店の外を見たいのに、女の子が邪魔で分からない。なんで店に入らないのかしら。
もう一度女の子を見ると、花よりも店の奥を気にしている。
店員さんに会いたいなら呼ぶか店に入ればいいのに。
なんなのかしら。
そのあとも様子を伺っていたら、やがて女の子は顔を伏せるとため息をはいた。
そこでタンポポに気づいたみたい。
はっと息をのんでからしゃがみこんで、しばらくじっと黄色の花びらを見ていた。
私はね、なにか嫌な予感がしたの。
「花占い……しようかな」
女の子はそう呟くと、ためらいなくタンポポを摘んでしまった!
「な、なにすんのよ!」
私の声が聞こえないと分かっていても、叫ばずにいられなかった。
タンポポとはさっき出会ったばかりで、ちょっと話をしただけ。
価値観も夢もちがう。
だけど――楽しかったの。
知らない世界を知ってるタンポポの言葉は物珍しくて、尋ねれば答えてくれるのが嬉しくて、楽しくて……もう少し一緒にいられると思ったのに!
見送る覚悟なんかちっとも出来ていないのよ。
だって私が見送られるとしか考えていなかったから。
「やめてよ。タンポポを連れていかないで!」
立ち上がった女の子は、どこかへかけて行く。
私の焦りとは反対に、タンポポは嬉しそうだった。
「大丈夫よマーガレット。聞いた? この子花占いって言ったよ。私は夢を叶えるの! マーガレット、あなたの夢も叶うといいね!」
じゃあねの言葉を最後に、タンポポの声は聞こえなくなった。
店内はさっきまでよりも静かになってしまった。
幸せそうなタンポポを見送った私だけが、モヤモヤとした気持ちに包まれていた。
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