胸騒ぎ

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胸騒ぎ

 それからお客さんが何人も来たり帰ったりしたけれど、私は見向きもできなかった。  外の景色の影が伸びてやっと、タンポポがいた場所をずっと見つめていたのに気づいたの。  タンポポは、どうなったのだろう。  私にも足があれば追いかけられたのに……自分が動けないのを不便に思ったのは初めてだわ。  根っこすら無いのくせにね。  せめてこの店の入口に立てれば、もう少し視界が広くなるのに。  そんな途方もないことを思ったそのときだったわ。  タンポポを摘み取った女の子が、全速力で店の前を横切って行ったの。  多分、手には何も持っていなかった。  タンポポはどこにやったのかしら。  さっきは大事そうに握っていたのに。  …………もしかして、捨てられた?  そう思いいたった瞬間、水を吸い上げたところから凍っていくみたいに、全身へ悪寒がはしった。  女の子はお世辞にも幸せそうに見えなかったわ。  もしかして、あの子の恋は叶わなかったの?  恋の後押しをしたいとタンポポは願って、花占いに使われるのをあんなに喜んでいたのに。  叶わなかった?  なんの処理もされずに手折られた花の寿命は恐ろしいほど短いのよ。  せめてタンポポ本人は幸せのうちに死ねていたらいいけれど……。  夢って叶うのが当然だと思っていたのに、そうじゃないのかしら。  タンポポは無駄死にしてしまったの?  私……私もそうなったらどうしよう。  もう一度、ぶるりと体全体が震えた気がした。
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