けんじへ

4/4
前へ
/4ページ
次へ
    *  ポケットの中のスマホが振動して俺を呼んだ。  炎天下の外に日陰はなく、俺は直射日光を浴びたまま応答する。 『なぁ、渡せたか?』  相手は病院にいるおっさんだった。さっきの今で気が早い――と空虚になった心で呆れ笑う。 『直接でなくても良いんだ。届けられたらそれで良い』  片手にはスマホ。もう片方の手には、未だずしりと重たい貯金箱がある。 『なぁ、頼むな。なぁ――』  俺は何も答えられずに、地面にしゃがみこんで嗚咽をもらした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加