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足しか湯に浸かっていないのに、だんだん全身がポカポカしてきた。
吏希が大きなあくびをする。つられて僕も。
いっぱい食べて身体が温かくなり、少し眠くなる。運転をしなきゃいけないから、目を擦って湯から足を出した。
「そろそろ帰るか?」
「うん、帰ろう」
濡れた足を拭くタオルを取ろうとすると、先に吏希の手が掴んだ。自分の腿の上でタオルを広げる。
「足を乗せて」
「いや、自分で拭けるよ」
驚きすぎて一気に目が覚めた。
「嫌じゃなければ拭かせて」
これも甘やかしたいってことなのかな。
タオルの真上に足を差し出す。タオルに触れるか触れないかくらいの位置で止めた。
「普通に乗せればいいのに」
吏希は苦笑して僕の足をタオルで包むと、自分の腿に乗るように押さえた。反対の足は何も言わずに足首を掴まれて、腿の上に乗せられた。少し浮かそうとすればタオルで押し拭きされる。
僕の足を拭き終わると、吏希は自分の足を大雑把に拭う。僕の足は両手で包み込んで丁寧に拭いてくれたのに。
車に乗って吏希がまた大きなあくびをした。
「眠いの?」
「楽しみで昨日寝るの遅くなったから」
「寝てもいいからね」
「寝たくない」
「そう? じゃあ出発するけど、限界なら寝なよ」
走り出してすぐに吏希は船を漕ぎ始めた。
「シート倒していいよ」
「……悪い」
そう言うと吏希は寝転がった。
「なあ……」
「なに?」
「信号待ちの時、手を繋いで」
吏希はアームレストに手を置いた。分かった、と返事をしたけれど、吏希に届いたかは定かではない。すぐに寝息が聞こえたから。
ぐっすり眠っていたけれど、赤信号になるたびに吏希の手を握った。途中で身じろいだ時に手がアームレストから落ちた。身を乗り出さなければ手を握られなくなり、それから手を繋ぐのは諦めた。
先ほどまでは赤信号が嫌ではなかったのに、煩わしく感じるようになって、今の関係でいるのをやめると伝えなければいけないと思った。
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