生配信

1/2
前へ
/24ページ
次へ

生配信

 バイト先のファミレスが忙しすぎて、時間通りにあがれなかった。店が落ち着いてきたら急いで着替え、走って家に向かう。  走りながら腕時計で時間を確認した。急げば間に合う。必死に走って家に着くと姉さんの部屋に駆け込んだ。 「おかえり、遅かったね」 「お店が忙しくて。よかった、間に合った」  姉さんの隣に腰掛ける。テレビ画面には大きく時間が映し出されており、数字がどんどん小さくなっていく。まだ三分ある。自分の部屋に行き、手作りのうちわを掴んで姉さんの部屋に戻った。姉さんもうちわを両手に持ち、応援の準備万端。  僕は姉さんの影響で『レイズ』という四人組の男性アイドルグループにハマっている。姉さんに沼へ落とされた。箱推しではあるが、ツーブロックで明るい茶髪のパーマ、圧倒的に顔が良い華やかなイケメン、リオンくんに夢中だ。もちろんリオンくんのうちわを持っている。  今日はレイズの雑談生配信がある。アーカイブでももちろん見るけど、リアタイ視聴したくてバイトの時間も調整していた。それなのに今日に限って時間通り帰れなかった。間に合ったから良かったけど。  始まる前にシャワーを浴びて油のにおいを落としたかったが、それは諦めた。レイズより優先するものなんてない。  テレビ画面のカウントがゼロになる。画面が切り替わると姉さんが画面に向かってうちわを振り回しながら叫び出した。姉さんの推しであるアズサくんの名前を何度も。 『こんばんは、レイズです。見えていますか? 声は聞こえていますか?』  画面の向こうからアズサくんが手を振る。 「聞こえてるよアズサ!」  聞こえもしないのに姉さんは声を張り上げる。コメントを打ち込めばいいのに。  姉さんのことは放っておいて、僕はアズサくんとシンくんの二人しか映っていないことが気になった。 『時間になったから始めたけど、リオンとユイトは仕事で遅れるって』  僕の心を読んだかのようなタイミングでシンくんが説明してくれる。『あと十分待って』とリオンくんのコメントが流れた。  アズサくんとシンくんが近況を話し始める。二人ともカッコよくて話も面白くて、あっという間に十分が経っていたらしい。リオンくんとユイトくんが両サイドから顔を覗かせる。カメラに近すぎるため、大画面に二人のドアップが映し出された。口元を手で覆うことによって叫ぶのを回避する。至近距離でもリオンくんとユイトくんは変わらずカッコいい。四人とも顔が良すぎるから、国宝として国が保護した方がいい! 『こんばんは、ユイトです。遅くなってごめんなさい』 『リオンです。遅刻したけどいい仕事したから褒めて』  リオンくんとユイトくんを称賛するコメントが流れる。わかる、とコメントを噛み締めたいのに流れが早すぎて全部追えない。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加