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ツアー終了生配信
大学に行くために外に出ると、吏希がいつものように家の前で待っていてくれた。目が合うと、顔が瞬時に赤く染まったようで熱い。恥ずかしすぎて咄嗟に視線を落とした。
「奏斗、おはよ」
僕の態度に気を悪くした様子もなく、吏希の声は穏やかだった。
「うん、おはよう」
隣に立っても地面から目線を上げることができない。
「これ、やる」
手を取られて握らされたのは飴。僕の好きな飴ではなく、吏希が好きな飴だった。突然どうしたのかな、と視線を上げる。やっとこっち向いた、と吏希が優しく微笑んだ。
「色々考えなくていいよ。奏斗は今まで通りで」
気を使わせてしまって申し訳なくなった。
「飴、ありがとう」
「美味いよ」
袋を破いて口に入れる。
「……この飴って味変わった?」
「いや、変わらないと思うけど」
吏希は確かめるように飴を含んで首を捻る。以前食べた時より美味しく感じたのは何でだろう。僕の味覚が変わったのかな?
お昼過ぎに家へ帰り、今日も吏希とリビングでライブ映像を見る。何度見ても最高すぎて一人ではしゃいでしまい、うるさくしすぎたかな、と不安になって隣に目を向ける。吏希は画面じゃなく僕を見ていた。
吏希の表情はすごく優しくて、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳だった。
「えっと、何で僕を見てるの? やっぱりうるさかった?」
「いや、全然。楽しそうにしてる奏斗が見たかっただけ。好きな相手を見るのは当然だろ」
好きな相手と言われて瞬時に顔が火照る。
「あのさ、吏希は僕のこと好きなんだよね?」
「そうだな。それがどうかしたのか?」
「えっと、……本当に今まで通りでいいの?」
顔を真っ赤に染めてこもごも話す僕に吏希は苦笑しながら頭をガシガシと撫でてきた。強くて髪がボサボサになる。
「正直に言うと、好きなんだから触りたいと思うし、キスとかそれ以上のこととか俺はしたいよ。でもさ、求められてもいないのに、そういうことはできないししたくない」
吏希が真面目な顔を緩める。
「今日は初めてのお家デートだろ? それでじゅうぶん!」
「お家デート?」
「付き合って初めて家で二人きりなんだからお家デートだろ。だから今まで通り奏斗は画面見ながら楽しんでればいいんだよ」
頷いて画面に目を向ける。でも吏希の言葉が頭から離れない。僕に触りたいと。キス以上のこともしたいと。想像はできないけど、嫌悪感はなかった。
手のひらに目を向ける。少し汗ばんでいてズボンで拭った。心臓が痛いほど鳴り、拭ったそばから手に汗が滲む。もう一度拭って吏希に手を向けた。
吏希は僕の手を見て目を瞬かせる。
「あの、手……繋ぐ?」
「繋ぐ!」
すぐに指を絡めるように握られた。コンサートの帰りはすぐに離れていったけど、今はきつく握られている。吏希は破顔して僕は恥ずかしすぎて画面に視線を移した。
握られた手から伝わる体温や感触に集中してしまい、レイズを応援するどころではなかった。
子供の頃は手を繋いでも平気だったのに。こんな風に指を絡める繋ぎ方はしていなかったけど。いつからか繋がなくなったのが、大人になって繋ぐことになるとは思わなかった。
「すげー嬉しい」
微かな声だったけど、手を繋ぐほど近くにいるから吏希の声は僕の耳に届いた。
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