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デート
母さんに車を借りることができて、僕の運転で目的地に向かう。最初は吏希がおばさんに借りる予定だったけど、出掛けるからダメだったらしい。僕が『ハンドルを握るリオンくんはカッコよかった』と言ったのを気にしていたようだ。ちょっと可愛いかもしれない。
僕はたまにしか車に乗らないし、家族以外を乗せたことがないから今はすごく緊張している。
「僕の運転大丈夫? 怖くない?」
「全然怖くない。すげー安全運転だし」
助手席に座る吏希からずっと視線を注がれているような気がする。運転中だから確かめられないけれど。
信号で止まるとホッと息を吐いた。肩に力が入っていたようで首を回してほぐす。
「なぁ、手を握ってもいいか?」
吏希が右手の甲をアームレストに乗せる。
「え? でも、運転してるから」
「信号待ちしてる時だけでいいから」
ハンドルから手を離して、左手を吏希の手のひらに合わせるように重ねた。指を絡められる。すぐに信号が青になり、ハンドルを握り直した。
「次の赤信号まだかな」
ボソリと呟かれた言葉に胸の奥がムズムズする。ずっと青でスムーズに進む方がいいはずなのに、吏希が喜ぶなら信号で止まるのもいいなと思った。
赤信号で止まるたびに手を繋ぎ、デートしている実感が湧く。初めて吏希がやりたいと言ったデートだ。吏希に楽しんでもらいたい。
タープテントの下にソファとテーブルとバーベキューコンロがあり、すぐに焼けるように準備されていた。
柔らかなソファにテーブルを挟んで向かい合うように座る。ソフトドリンクで乾杯して、今か今かと焼けるのを待った。
「焼けたからいっぱい食えよ」
吏希がお皿にお肉をいっぱい盛ってくれた。
大きく口を開いて頬張る。
「美味しい!」
「美味い!」
同時に声に出して、顔を見合わせて笑った。
「肉以外も食えよ」
吏希は自分が苦手なシイタケを僕のお皿に乗せる。僕の苦手なナスは全部吏希のお皿に乗っていた。
焼くだけなのに外で食べるから格別に美味しくて、吏希と一緒だから楽しいのだと深く感じた。
お腹いっぱい食べて、背もたれに身体を預けてお腹をさする。
「食べすぎて苦しい」
「俺も。楽しくて食べすぎた」
まだ予約の時間は残っている。お腹を落ち着けるためにギリギリまでゆっくりしよう。
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