デート

1/3
前へ
/24ページ
次へ

デート

 母さんに車を借りることができて、僕の運転で目的地に向かう。最初は吏希がおばさんに借りる予定だったけど、出掛けるからダメだったらしい。僕が『ハンドルを握るリオンくんはカッコよかった』と言ったのを気にしていたようだ。ちょっと可愛いかもしれない。  僕はたまにしか車に乗らないし、家族以外を乗せたことがないから今はすごく緊張している。 「僕の運転大丈夫? 怖くない?」 「全然怖くない。すげー安全運転だし」  助手席に座る吏希からずっと視線を注がれているような気がする。運転中だから確かめられないけれど。  信号で止まるとホッと息を吐いた。肩に力が入っていたようで首を回してほぐす。 「なぁ、手を握ってもいいか?」  吏希が右手の甲をアームレストに乗せる。 「え? でも、運転してるから」 「信号待ちしてる時だけでいいから」  ハンドルから手を離して、左手を吏希の手のひらに合わせるように重ねた。指を絡められる。すぐに信号が青になり、ハンドルを握り直した。 「次の赤信号まだかな」  ボソリと呟かれた言葉に胸の奥がムズムズする。ずっと青でスムーズに進む方がいいはずなのに、吏希が喜ぶなら信号で止まるのもいいなと思った。  赤信号で止まるたびに手を繋ぎ、デートしている実感が湧く。初めて吏希がやりたいと言ったデートだ。吏希に楽しんでもらいたい。  タープテントの下にソファとテーブルとバーベキューコンロがあり、すぐに焼けるように準備されていた。  柔らかなソファにテーブルを挟んで向かい合うように座る。ソフトドリンクで乾杯して、今か今かと焼けるのを待った。 「焼けたからいっぱい食えよ」  吏希がお皿にお肉をいっぱい盛ってくれた。  大きく口を開いて頬張る。 「美味しい!」 「美味い!」  同時に声に出して、顔を見合わせて笑った。 「肉以外も食えよ」  吏希は自分が苦手なシイタケを僕のお皿に乗せる。僕の苦手なナスは全部吏希のお皿に乗っていた。  焼くだけなのに外で食べるから格別に美味しくて、吏希と一緒だから楽しいのだと深く感じた。  お腹いっぱい食べて、背もたれに身体を預けてお腹をさする。 「食べすぎて苦しい」 「俺も。楽しくて食べすぎた」  まだ予約の時間は残っている。お腹を落ち着けるためにギリギリまでゆっくりしよう。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加