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「奏斗、隣に行ってもいいか?」
真剣な表情で見つめられて頷く。吏希は腕が触れるほど近くに座った。ソファが沈んで手を握られる。
「時間までこうしていてもいい?」
吏希の頭が僕の方に傾いた。僕は全身を熱くして頷く。会話はない。触れ合うのは緊張するけれど、吏希の息遣いや温もりに、安らぎも感じた。
「どこか寄りたいところある?」
車に乗り、アクセルを踏んで走らせる。
「来る時、近くに足湯の看板があったから寄って行かないか?」
「うん、いいよ」
五分ほど走ると看板が見えて車を止める。誰もいなくて、貸切だね、と笑った。
「なぁ、あれ、やらないか?」
吏希が興味を示したのは、足湯のすぐ近くにある小さな石が敷き詰められた道。素足で歩いて足ツボを刺激するみたいだ。
「絶対に痛いよね」
「俺は絶対に大丈夫!」
吏希は自信満々に靴と靴下を脱いでスタート位置に立つ。本当に平気そうだな、と思ったけど、足を進めるたびに歩き方が不恰好になる。最後は大股ガニ股で腰が引けていた。
「めちゃくちゃ痛い!」
吏希はゴールすると座り込んで足の裏をさすった。絶対に大丈夫、と言っていたのはフリだったようで笑ってしまった。
「何笑ってんだよ。奏斗も来いよ」
少し拗ねたような口調に咎められる。嫌だな、と思うけど、靴と靴下を脱いで意を決して足を乗せる。すでに痛い。そっと足を進めるけど、痛すぎて僕も吏希と同じような歩き方になっていたと思う。ゴールで待っていた吏希がお腹を抱えて哄笑していたから。
「すごく痛かった」
足を投げ出して座る。
「早く足湯に行こうぜ」
先にやった吏希は回復したようだけど、少し休ませて欲しい。口に出すより早く身体が宙に浮く。横抱きにされて咄嗟に吏希の首にしがみついた。目を白黒させていると、重いな、と呟かれる。
「当たり前でしょ! 僕は小柄なわけじゃないんだから」
吏希と比べると小さいかもしれないけれど、百七十はあるんだ。
「そりゃそうだよな」
すぐ近くに顔があることを意識してしまって、手を離して頷いた。
「ちゃんと掴まってろよ。落ちたくないだろ」
そう言われてしまえば、再び首に腕を回すしかない。
足湯まで運んでくれて、お湯に足をつける。少しぬめりのあるお湯だ。あぁー、と出てしまった声がハモった。顔を見合わせて笑う。
「重かったでしょ? 腕とか大丈夫? 少し休めば僕も歩けたよ」
「腕より腰にきた。俺さ、付き合ったら甘やかしたいって言ったろ? 嫌じゃなければ甘やかされてよ」
おずおずと頷けば、朗らかな笑顔を向けられた。
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