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吏希の部屋に通される。部屋に入って吏希が薄手のパーカーを脱ごうとしたから、後ろに立って脱がす補助をした。
吏希が勢いよく振り返って困惑したような表情を浮かべる。
「どうしたの?」
パーカーを渡しながら問いかけると、なんでもない、と首を振って受け取ってくれた。パーカーはイスの背もたれに掛けられた。
向き合って座り、緊張で心臓がバクバクと脈打つ。前回こうやって向き合った時とは真逆のことを言うのに、同じくらい緊張している。
何度も口を開きかけて閉じるを繰り返す。最初の一言が発せられない。
吏希の指先が遠慮がちに僕の手に触れた。手を辿るように視線を動かせば、吏希と目が合う。とても優しい表情だった。
「言いたいこと言っていいよ。俺が悲しむと思って言えないんだろ?」
僕は目を瞬かせるばかり。
「吏希が悲しむ?」
「付き合うの無理って言うつもりなんじゃないのか?」
付き合うのが無理? 言われた意味がわからない。吏希はなんでそんな勘違いをしているんだろう。戸惑う僕に、違うのか? と首を傾ける。すぐに否定した。
「違うよ! 僕が言いたいのは……」
吏希と本当の恋人になりたいってこと。僕の好きなことばかりに付き合ってもらっていた。今日は吏希の好きなことをして、これからも楽しい時間を共有したいと思った。僕に合わせてもらうだけじゃなく、対等でいたい。吏希は僕に『付き合ってもらっている』と思っている。『付き合っている』と思ってもらえるようになりたい。
大きな手が宝物を触るように僕の手を包む。
「いつまでも待つから、言える時に言いたいこと言って」
どこまでも優しい。
心が灯り、喉の奥でつっかえていた言葉が自然と出てきた。
「僕は吏希と付き合いたい」
吏希は目を剥く。時間が止まったかのように、その表情のまま固まった。
「軽く考えて付き合ってって言われたけど、そうじゃなくて、ちゃんと付き合いたいんだ」
瞼が震え、吏希の目尻から涙が一筋溢れた。隠すように俯いて袖口で目を擦る。上げられた顔は涙で目元が潤んでいたけど、晴れやかな顔だった。
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