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「もう何もしないから。この後はどうする? 夕飯食いに行く?」
外は薄暗くなっていた。いつもなら夕飯を食べている時間だ。
「僕はあまりお腹減ってない」
「昼間いっぱい食べたからな。俺もそんなに減ってない」
「ううん、そうじゃなくて。胸がいっぱいで食べられそうにない」
先ほどまでの甘美なキスを思い出して、頬を両手で覆う。
「せっかく止めれたのにそんなこと言うなよ」
吏希が肩を落として大きなため息を吐いた。
「じゃあどこかに行くか、何かしないか? 奏斗はどうしたい?」
吏希としたいこと? 思考を巡らせ、ハッと思い浮かんで口を開いた。
「一緒にレイズの打ち上げ生配信を見たい」
「……いいけど、見たんだろ?」
「でも最初あまり楽しめなかったんだ」
「何で? つまんなかった?」
「違う。吏希のことばかり考えてたから」
吏希は目を丸くする。
「だから全然楽しめなかった。吏希と付き合えて一緒にいる今なら楽しく見れると思うんだ」
「そうか。一緒に見よう。俺は楽しんでる奏斗を見たいし。俺と付き合ってアイドル好きなのを我慢もされたくない」
「ありがとう。でもレイズは推しだから。好きなのは吏希だから」
吏希は目頭を揉む。こちらに向けられた瞳は潤んでいるように見えた。
「奏斗からこんな言葉が聞ける日が来るなんて……。もう一回言って。俺のこと好きってところだけ」
「吏希が好き」
「すげー嬉しい。よし、見るか」
スマホを操作してアーカイブ配信を再生した。
「きっと吏希も楽しめるよ。アズサくんが吏希のこと話してたし」
「俺、アズサと知り合いでもないけど?」
首を傾けて目を瞬かせている。
シンくんとアズサくんとユイトくんが映し出された。
僕は自分から吏希の手を握った。吏希は驚いていたけど、すぐに顔を綻ばせる。
「あのさ、すぐって訳じゃないけど……」
「ん? どうした?」
顔を見合わせる。全身が熱くなるけど、震える口を開いた。
「一緒にグランピングに行きたいね」
少しの間があり、吏希が照れたように頷いた。
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