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幼馴染
アラーム音で目覚め、眠い目をこすりながら支度する。家を出て大きなあくびをするとくすりと笑われてそちらに目を向けた。
「でけーあくびだな」
声の主は家の前で僕を待っていた幼馴染の吏希。
「おはよう。昨日は姉さんと遅くまで盛り上がったから」
「相変わらず仲良いな」
吏希とは学部は違うけど同じ大学だから、二人とも一限からだと一緒に通っている。一年生だから、一限からじゃない方が少なくてほぼ一緒だ。
「またいつものアイドルか?」
「そう! 昨日の生配信がすごく良くて!」
吏希は僕がレイズにハマっていると知っている唯一の友達。興味はなさそうだけど嫌がらずに聞いてくれるから、レイズについていっぱい話してしまう。
「昨日はユイトくんがリオンくんの上着を脱がせててさ。絶対に付き合い始めたよね、って盛り上がっちゃった」
「リオンって奏斗の推しじゃなかったっけ? 落ち込むんじゃなくてなんで盛り上がってんの?」
「僕はリオンくんが推しだけど、リアコじゃないから。推しの幸せが僕の幸せ」
リオンくんが存在しているだけで僕は幸せなのだから。
「じゃあさ、リオンが目の前にいて奏斗に『付き合って』って言っても同じこと言えるの?」
「そんな厚かましい妄想できるわけないでしょ! リオンくんと付き合うなんてありえない。僕が隣に立つなんて解釈違い!」
圧倒的な美のリオンくんの隣に、どこにでもいるようなちんちくりんの僕がいる想像を脳が拒否する。僕の部分だけモザイク処理されている。
「リオンはチャラそうな見た目じゃん。そういうのが好みなんだろ?」
「リオンくんはチャラくありません。見た目は華やかだけど、しゃべると人懐っこい末っ子キャラだから。広い音域とキレのあるダンスで歌ってる時はめちゃくちゃかっこいいのに、メンバーと話している時の整った顔をくしゃっとする笑顔は癒される。そんなギャップが魅力のリオンくんがチャラいわけがない! 週刊誌に載ったのだって、三年前に真面目に教習所に通っていたことだけだし。ハンドルを握るリオンくんはカッコよかった!」
オタク特有のノンブレス早口で言えば、吏希は若干ひいていた。
少し落ち着こう。姉さん以外には吏希にしかレイズのことは話せないのだから、これを機に語るのを拒否されたらたまったものではない。
「じゃあ俺は?」
「ん? 俺は? って何?」
「昔から容姿は褒められたし、奏斗の好みではないの?」
吏希は確かに小さな頃からモテていた。背も高くて足も長く、スタイルだっていい。リオンくんとは系統が違うが、涼しげな目元が印象的な爽やかイケメンだと思う。でも、僕はリオンくんの顔がこの世で一番好き。
「吏希はカッコいいけど、僕の推しはリオンくんだから」
「そうか、でもリオンの隣には立てないけど、俺の隣には立てるんだよな?」
「うん、今も隣を歩いてるし」
吏希はなにやら一人で納得したように頷いている。僕は首を捻ることしかできない。
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