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終わる時間は吏希と別だったから、一人で家に帰った。
夕飯もお風呂も終わらせて部屋で寛いでいるとインターホンが鳴る。程なくして僕の部屋の扉が開いた。
そちらに視線を移し目を見張る。
吏希の艶のある黒髪ストレートヘアがツーブロックに明るい茶髪のパーマに変わっていた。
「……どうしたの?」
戸惑いながらもそれだけ搾り出した。
「じいちゃんから野菜が届いたから、母親に奏斗の家に持ってけって言われて届けに来たんだけど、おばさんに『奏斗は部屋にいるけどあがってく?』って言われたから奏斗の部屋に来た」
ここにいる理由を聞いたわけじゃないんだけど。
「そうじゃなくて髪型!」
「ああ、マジ大変だった。カット、カラー、パーマで時間は掛かるし、色抜いてるから頭皮は痛いし。痛すぎたから洗い流して禿げてないか心配になった」
「いや、そうでもなくて、何でその髪型にしたの?」
リオンくんと同じ髪型だ。
「何でってちょっと意識してもらえたらいいなって思って」
「……誰に?」
「分かってんだろ? で? 似合うか?」
「う、うん。すごく似合うよ」
「リオンとどっちがカッコいい?」
「……リオンくん」
吏希は苦笑して僕の隣に腰を下ろした。吏希の手が僕の手に触れる直前、階段を駆け上がる音が響く。奏斗、と名前を叫びながら姉さんが僕の部屋の扉を勢いよく開けた。
「え? リオン? ……じゃなかった、吏希くんイメチェンしたんだね。似合ってるよ」
「ありがとうございます」
和やかに姉さんと吏希が話すが、姉さんはすぐにその場に崩れ落ちた。
「最悪なんだよ! レイズのコンサート行けなくなった」
「え? 何で?」
「仕事。めちゃくちゃ楽しみにしてたのに」
泣き崩れる姉さんをアズサくんのグッズをいっぱい買ってくる、と宥めて部屋まで送る。
「姉さん大丈夫か?」
「多分大丈夫。しばらくは引きずると思うけど。でもどうしようかな。一人で行くの初めてだから不安だ」
いつも姉さんと行っているし、レイズファンの友達はいないし。
「それ、俺が行ってもいいか?」
「一緒に行ってくれるのは嬉しいけど、吏希はレイズに興味ないでしょ?」
「俺は奏斗と一緒に出掛けたい。奏斗が楽しんでいる姿を見たい」
姉さんが部屋に来たことで触れられなかった手を掬い上げられる。顔が熱い。吏希の言葉を思い出す。『分かってんだろ?』って自惚じゃなくて、やっぱり僕のことなんだよね。
吏希の手が離れて、知らずに強張っていた体の力が抜けた。
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