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開演時間になり、照明が落ちた。
イントロが鳴り響く。一曲目はリリースされたばかりのドラマのタイアップ曲。会場は熱気に包まれる。
生の歌声や息の合ったダンスに涙で目が滲む。吏希にハンカチを差し出された。聞こえないだろうけど、ありがとう、と言って受け取る。
いろんな曲が流れ、花道をシンくんとアズサくんが手を振りながら歩いてきた。こちらを見てシンくんとアズサくんが笑い合うと投げキスをする。アズサくんだけではなくシンくんにもファンサしてもらった吏希は苦笑いしていた。贅沢すぎるんだからもっと喜んで欲しい。周りの黄色い声は一際大きくなったのに。
リオンくんとユイトくんも目と鼻の先を歩く。僕はリオンくんに釘付けになる。輝きすぎていて眩しい。残念ながらファンサはもらえなかったけど、間近で見てもリオンくんはカッコよすぎた。
物販の列で吏希と一緒に聞いたCMソングや、それぞれのソロ。笑いの絶えない楽しいMCもあり、時間はあっという間だった。
二回のアンコールが終わり、最高潮の盛り上がりのまま幕を下ろした。
興奮冷めやまなくて、家に着くまでひたすらレイズのコンサートについて吏希に語り続ける。吏希は相槌を打って聞いてくれた。
「もうカッコよすぎた! レイズのファンになれて良かった!」
「確かにカッコよかったよな。俺はファンじゃないけどそう思ったよ」
吏希の言葉に顔を輝かせる。布教を続ければ、吏希もファンになるんじゃないだろうか。
「時間がある日に一緒にライブ映像見る?」
「いいよ」
良い返事が聞けて、心の中でガッツポーズを取る。
家の前に着いた。じゃあね、と手を振ろうとすると、吏希が指を絡ませるようにその手を握った。目の高さにある繋がる手を凝視する。
吏希の顔が近付いてきて、思わず目をギュッと塞ぐ。耳元に温かい息が掛かった。
「奏斗が好きだよ」
すぐに離れていって至近距離で見つめられた。僕は目を見開いて顔を真っ赤に染める。吏希は愛おしそうに目を細めた。言葉だけじゃなく、目でも好きだと言われているようで、さらに顔に熱が集まる。
「な、何で、急にそんなこと言うの?」
消え入りそうな声でそれだけ搾り出す。僕のことが好きなのかも、と匂わせるセリフは聞いた。でも、明確に言われたのは初めてだ。
「だって奏斗は眠るまでリオンのことを考えるんだろ? 俺もリオンのことカッコいいと思っちゃったし、ちょっと悔しいから俺のことも考えて欲しくて。じゃあな、おやすみ」
絡んだ指がするりと抜ける。吏希は隣の家に入っていった。僕はしばらくその場から動けなかった。
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