コンサート映像

1/3
前へ
/24ページ
次へ

コンサート映像

 朝方に寝ついたせいで、昼過ぎに起きた。コンサートの余韻に浸ることができず、吏希が頭の中をずっと占めていた。  今日が休日でよかった。どんな顔をして会えばいいか分からない。今でも吏希のことばかり考えてしまう。  部屋を出てリビングに行くが誰もいない。作り置きされている昼食を温めて食べる。『奏斗が好きだよ』そう言った吏希の表情が勝手に浮かんできた。頭を振って意識的に消しても、また脳裏に咲く。  インターホンが鳴り、思考の渦にのまれていたが、現実に引き戻される。口に入っているものをお茶で流し込み、玄関の扉を開けて固まった。 「奏斗、今日は暇か? 暇そうだな」  吏希がふっと笑う。昼を過ぎているのによれよれの部屋着にボサボサの寝癖頭。暇であると言っているようなものだ。 「……どうしたの?」  顔に熱が集まっている気がして少し俯く。 「奏斗にライブ映像一緒に見るかって誘われたから今日暇だし見にきた」  昨日の別れ際のことなんてなかったかのように普通に話している。吏希はいつも通りだ。拍子抜けした。断るのも意識していると思われそうで、吏希を招き入れる。 「ちょっと待ってて。お昼ご飯の途中だから」 「分かった、遠慮せずにゆっくり食えよ」  吏希は僕の正面に座ってスマホをいじり始めた。本当にいつもと変わらない。昨日のことは夢だったんだろうかとさえ思えてきた。いや、でも、僕はレイズのコンサートの余韻にすら浸れなかったわけで。  うだうだ考えるのはやめよう。吏希がいつも通りでいるなら、僕もそうしていよう。  ご飯を口いっぱいに頬張ると吏希がこちらに視線を向ける。 「ゆっくり食べていいって言ったろ」  しばらく噛んで飲み込む。 「だって早くライブ映像見たいし」 「それなら食べながら見ればいいだろ」 「食べながらだと応援できないもん」  急いで全部食べ終わると部屋に駆けていき、ブルーレイを掴むとリビングに戻る。  昨日のコンサート後に思い返すことができなかったんだ。コンサートのアフターだと思って、目一杯楽しむことにする。 「リビングで見よう。僕の部屋はテレビがないから」  自室で見る時はポータブルブルーレイプレーヤーになる。せっかく誰もいないのだから、大きな画面で見たい。  ブルーレイをセットして、並んでソファに腰掛ける。いつもの距離が少し居心地悪いのは気のせいって言い聞かせた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加