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数日後の朝。
昇降口は登校してきた生徒で混雑していた。
「野島くんおはよー」
夏生が靴箱の前で立っていると、何人も女の子が挨拶してくる。
同じクラスの子や元クラスメイト。たいして親しくもない子ばかりだが、夏生は全員に笑顔で挨拶を返した。
一人、その横を素通りしていく女の子がいた。
咲だった。
「おはよう奥村」
緊張しそうになる自分を抑えて、夏生はにこっと笑う。
咲は不機嫌そうにこちらを睨んで、何も言わずに去っていった。
彼女の前では夏生の目鼻立ちのくっきりした端正な顔立ちも、笑顔も、すらりとした長身も、何一つ役に立たない。
咲とは一年の時同じクラスだった。
大抵の女の子は夏生に好意的なのに、咲だけはいつ話しかけても冷たい。
出会った頃からずっとそうだった。
そんな態度をされればいい気はしないはずなのに、夏生は逆に咲のことを好きになってしまった。
いつかは咲に告白しようと日々考えている。
今はそのチャンスをうかがっている最中。
つまり、告白する勇気がないだけなのだが、自分にならいつだってできるだろうと気楽に考えていた。
いつも通り教室へ行く。
途中、廊下で咲の親友である由利が声を掛けてきた。彼女も一年の時、同じクラスだった。
「野島くんのクラスってお化け屋敷やるんでしょ? 咲ちゃんと一緒に行くからね」
「あーうん! よろしくな」
答えて歩きながら、なぜ咲には由利のように気楽に接することができないのだろうと思う。
いつだって緊張して、笑顔を作るのに必死で、言いたいことが言えない。
ふと、夏生の頭に亡霊の姿が浮かぶ。
──好きな人に告白できずに亡くなった幽霊。
いやいや。そんなことにはならない。
夏生は一瞬でもおかしな想像をした自分を笑い飛ばした。
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