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その日は、うだる、というよりは、煮えたぎるような暑さ。じめじめとした空気を吸うと、肺の中が熱くなった。頭から、顎から、汗が滴り落ちる。俺はひたすら歩きながら、すっかりぬるくなったペットボトルの、最後の一口を飲み干した。
空になった、2本のボトル。行く手にあるのは、まっすぐに伸びる細い畦道。店も自販機も見当たらない。失敗した。さっきの店で、水を買っておくんだった。どうせなら今持っている水を全部飲んでから、冷たいやつを買おう、こんな田舎でも、コンビニや自販機くらいはあるだろう-。そう高を括っていた2時間前の俺を、俺は心底恨んだ。
***
歩いても歩いても、辿り着かない。しまいには、頭がぼうっとして、なぜ歩いているのか、どこに向かっているのかさえ曖昧になってきた。
「…なんだっけな」
無駄だと思いながらも再びペットボトルの口を開けて、天を仰ぐようにして口を付けた。数滴の水が舌の上に落ちて、渇きがよけいにひどくなった。
なんだっけな。なぜ俺は、ここに来たんだっけ。もう一度呟いて、どさりと腰を下ろした。
蝉の鳴き声が響く。意識が、遠くなる。
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