一弥と〇ケねこ

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「うっわ!」  突然、頭から水が降り注いできた。冷たさに遠のいていた意識が呼び戻される。見上げると、誰かが傍らに立って高い位置から俺に水を浴びせていた。逆光で顔は見えない。乱暴な行動だが、腹が立つより先に、助かった、と感謝の念が沸いた。  その男が手にしているのは、俺が持っていた空のペットボトルらしい。近くで、水を汲める場所があったのか? そう思っているともう1本のボトルを差し出され、俺は一気に飲み干した。最後の一口まで飲み切って、ようやく人心地がついた。         *** 「あ、ありが…」 「お前、死ぬとこだったな」  礼にかぶせるように言って、男はニヤリと笑った。 「つまり俺は、命の恩人だ」  そう断言されて、緊張が走る。金を請求されたりするんだろうか。  不安が、とげとげしい言葉になって口から洩れた。 「なんだよ。礼をしろって、金を払えってことか? 大した持ち合わせはない…」 「いやいや、そんなものは要らねえ」  男はまたも俺の言葉を遮って言った。 「ただ、ちょっと届け物をしてほしいんだ。俺はここから動けないから」 「届け物?」 「そう、伝言を頼みたい。あいつに、伝えたい言葉がある。だけど、俺はここから動けないから。… あんた、俺とちょっと似てるし、それに、弥一と一弥、名前も似てる。そんなあんたの言葉なら、あいつにも届くんじゃないかと思って、だからあんたを呼んだんだ―」
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