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言われたとおり、木の下の盛り土に腰を下ろして数分。果たして、それはやって来た。目に、全身に、怒りを讃えながら。どう見ても普通の三毛猫に見えたから、猫のように威嚇するのかと思ったが、代りにその口から出たのは、
「そこに座るな、弥一の墓じゃ。早う、立ち去れ」
という、人間の言葉だった。あれ、しゃべった、とは思ったけれど、特に驚きはなかった、まだあの灼熱に焙られた余波で、どこかおかしかったのかもしれない。
驚いたり聞き返したりする代わりに、俺は静かに言った。
「お前、トワか?」
「え? なぜそれを?」
驚き聞き返す言葉に答えず、俺は、お前に、届け物だ、と告げた。
「届け物?」
「そう、伝言がある。弥一から」
「弥一!?」
俺の口から出た名に強いショックを受けた三毛猫・トワに、俺は、預かった言葉を告げた。
***
伝言を聞いて、トワは一瞬体を硬直させ、それから俺をじっと見た。
そして言った、あんた、似てる、あの人に。
それから、全身の力が抜けたかのようにして座り、蹲り、そして、そうか、そうか、あたし、もう生きなくていいんだね、そう呟いて。
それから―。
風に吹かれて、さらさらと溶け出すように消えて行った。
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