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「俺はあいつ、トワに、ひどい呪いをかけてしまった。もちろん、呪うつもりなんかなかったさ。だけど、俺の言葉のまま、あいつはずっと、死ねずにいるんだ」
桜の木の下に向かう前、俺の“恩人”・弥一は、そう言って、1000年ほど前に彼らの身の上に起きた話をした。飢えて死ぬだなんて、村が全滅するだなんて、そんなことがあったん、と、俺はショックを受けた。歴史の授業で、飢饉については習ったことがある。だけど、こんな凄惨なことが起きていたとは思っていなかった。
だから、俺の伝言であの猫が“呪い”から解放されたとき、俺は安堵した。生き物が溶けてなくなる、そんな異様な光景に、怖くも不自然さも感じず、俺は、ただ、安堵したんだ。
ざあっと、風が吹いて桜の木が大きく揺れ、どこからともなく、ありがとうな、という弥一の声が聞こえた、気がした。
弥一も、トワが心配で、ずっとここから離れられずにいたんだろう。その心配がなくなって、あいつもまた、あの場所から動くことができたのかもしれない。もしかしたら、また出会えて、2人一緒に。
まだ熱の残る地面に立ったまま、そうだといい、と心から思った。
FiN
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