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夫の遺言
「ただいま、マミ」
みゃー、みゃみゃみー、んがー。私を出迎えて猫のマミが何か訴えている。私の帰りを一番喜んでくれるのは彼女だ。
「ただいま。おとうさんの納骨、終わったよ。めっちゃ暑かったわ」
遺影の夫は私の話を黙って聞いている。返事があったらそれはそれで面白いのだけれど……。
1月に亡くなった夫の父親の納骨のため7月末に夫の実家に数日滞在した。あの地震でずれた墓石も修理され、管理が楽なようにコンクリも貼ってあった。
葬儀の後、義妹はこの家に母親を一人きりにできないと思ったようで、ここと嫁ぎ先である自分の家とを毎日二往復し、夜は母親の横で寝ている。
「兄ちゃんは定年になったらこの家に帰るつもりやったやろか?」
義妹にこの質問をされるのは二度目? 三度目かもしれない。
「さあ? 私には言わなかったから。どうするつもりだったのかしらね」
私からは絶対に訊ねはしない夫への問い。訊いて、「親の家に帰る」などと言われたら困るだけである。今更、夫の両親と同居ができるはずもなく、先はほぼ老親の介護で、夫が担ったとしてもほんの一部、そんな風にしか考えられないのだから。
田んぼに囲まれた二十軒余りの集落にある夫の実家よりも我が家は遙かに交通の便もよく、生活がしやすい。歳をとってから不便な生活を選び、あの集落での近所づきあいを一から始めるなど無理。だからといって「私は行かないから」と言えるはずがない。渋々でも行くことになるだろう。
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