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弁当を食べ終わり、鷹平は席からぼんやりと外を見ていた。
目の前では岳人が気持ちよさそうに寝息を立てており、その横では文裕が熱心に携帯をいじっている。昼休みはいつもこのパターンだった。
岳人とは小学校からの腐れ縁、文裕とは高校に入ってからの付き合いだ。自分たちのことながら、まるでタイプの違う者同士がよくつるんでいられるものだと思う。共通点がないからこそ引き合うのか。
他に友人のいない鷹平にはよく分からなかった。
窓の外、春の霞んだ空気のなか、桜の花びらが風で一斉に舞い上がった。やがて花びらを空へといざなった風は校舎の窓にも届き、かすかな潮の香りを教室に運んできた。
「私言ったよね!」
大きな声が聞こえ、鷹平は振り向いた。
声を荒げているのは遠野梓だった。怒りの矛先は湊萌に向けられている。外から戻ってきた湊萌は教室に入るなり梓に詰め寄られ困惑しているようだった。
文裕は携帯から顔を上げ、岳人は目を覚ました。
「お昼休みの前に言ったよね? 私は委員会の打ち合わせがあるから、黒板消しといてって」
見ると、黒板の端に何かが書きなぐられていた。どうやら数式のようだった。
「これは何?」梓は黒板を親指で指した。
「え?」湊萌は黒板を見ると、戸惑うように言った。「わたしは、ちゃんと消していったけど」
「現に消えてないじゃない」
梓はさらに語気を強めた。
寝起きの岳人があくびをしながら呟いた。「また遠野かよ」
「遠野さんは何をあんなに怒ってるのかな」文裕が言った。
「さあね。相手が霧川だといつもああだからな」
「嫌いなのかな」
「本人に聞いてみろよ」
「い、嫌だよ」
「なにビビってんだよ」
「そんなんじゃ——」
「ちょっと梓!」
麦穂の声が響いた。梓は麦穂をにらんだ。
「それは竹中君たちが昼休みに書いたの。湊萌は関係ない」
鷹平はクラスの中を見まわしたが竹中本人はいないようだった。
「あらそう」梓は口元だけで笑った。「昼休みも勉強ってどんだけよ。頭がいいのか悪いのか分からないわね」
そして黒板消しを取ると数式を綺麗に消し、自分の席へ戻った。
湊萌は小さな声で礼を言った。
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