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「塩崎先生、これ音楽室にも掲示お願いしていいですか?」
あれから7年の月日が経ったある日、手渡されたポスターに馴染みのある顔、いや、私の娘で恋人の顔が映っていた。
【楠原蓮 単独ピアノコンサート】
彼女はここを卒業後、地元の芸大の音楽科に進学し、非常勤講師として生計を立てる傍ら、音楽家としても活躍している。
「先生、また来てくれたんですね」
「私はもう、君の先生じゃないよ」
「先生、また“君”って、ちゃんと蓮って呼んでください!先生は私の父親で、恋人なんですから」
「蓮の方こそ、“先生”と読んでいるじゃあないか」
「私にとって先生は先生です」
イチョウが立ち並ぶプロムナードを二人で寄り添って歩く。この先の景色は何が広がっているのだろう。ただ、一つ確かなことがあるとするならば、どんなに先が真っ暗でも音楽は鳴り続いているということだ。
「-先生?どうかしました?」
「いいや、なんでもないさ。帰りにアイスでも買って帰ろうか」
遊歩道には二人分の足跡が刻まれた。
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